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甘味桜のゆるゆる甘味処

このブログは私甘味桜がアニメの二次小説や感想を書くブログとなっています。
主なジャンルはハマトラのナイアト、黒バス黒子受け、ハイキュー!!の大菅などを書きたいと思っています。

とくん、とくん

 静かに響く、心臓の鼓動。
優しく舞う白色のカーテン。

 この空間だけ、時間の流れが緩やかになったような。
そう錯覚するほど、穏やかな時。

  キッチンから薫るのは、彼の好きな紅茶の香りで。
その香りを嗅ぐだけで、僅かに鼓動が早くなる。
あぁ、なんて幸せなんだろう。


「ナイス」

 
彼が自分に呼びかける。
甘やかで、柔らかい、幼子に話しかけるような声。
この声が、なにを指すかをナイスは知っている。

「アート」

自分も同じような声で呼びかけて、そっと腕を広げた。
それだけでアートは、こちらに歩み寄る。
ふわり、ふわりと、まるで踊るような足取りで。
やがて、辿り着いた彼は、ナイスをそっと抱きしめた。
そして、緩慢な動作でしゃがみ込むと心臓にそっと耳をあてる。

「ちゃんと動いてる……君の、スキルの心臓が」

この囁きを聞いた瞬間、愛しさがこみ上げると同時に、心拍数が上がった。


アートは時々、こうしてナイスの心音に耳を傾けることを好んでいた。
その理由は明白で、自分の中にいる弟を感じたいからだ。
緩やかに響く心臓の音は、彼が生きていることを示す証。
だから彼は、音を聞く。

ナイスは思う。
スキルの心臓が、自分に移植されたのは、偶然ではなく必然なのだと。
彼が愛する人が生きる為に起きた、奇跡なのだと。

 
アートへの気持ちを自覚した時、ナイスはこれ以上好きになる人はいないだろうと、直感的に感じた。
それは恋が実ろうと、実らなかろうと変わらない。
だからこそ、彼と結ばれた時、嬉しくて、嬉しくて、仕方がなかった。
そして、心に決めた。

  この心臓が動くうちは、彼のことを守り続けようと。

 
――この人を、自分の生きる意味にしようと……

 
そう、誓ったのだ。

 

「ねぇ、ナイス」

アートの声で、思考が現実へと浮上する。
いつの間にか耳を離したのか、彼は床の上にぺたんと座り込んでいた。

「なに?アート」

普段の自分なら考えられないほど甘い声で尋ねる。
少しだけ下にある彼の瞳は、ぶどう味のキャンディーみたいな輝きで、こちらを見つめていた。

「僕はね、スキルの心臓が君に移植されたのは、きっと必然だと思うんだ」

その言葉にハッとした。
さっき自分が思ったこと。

  「スキルの願いをかなえようって、君を殺そうとしたことも、君と僕が結ばれるためだったのかな、なんて。都合がいい話かな?」

 でもね、そっと言葉が続く。

「あの出来事があったから、君を守りたい気持ちが強くなった。大事な人を、愛しい人を傷つけたくないって。罪を背負ってでも生きていこうと思った。君に寂しい思いをしてほしくないから。要するにね……」

 
「ナイス、君が僕の生きる意味になったんだ」

タイミングを狙ったかのように、風が舞い込んだ。
長い銀髪をなびかせながら、アートが優しく笑う。

  刹那、ナイスの目から涙がこぼれ落ちた。

 
自分たちの出会いが、運命かそうでないかなんて、誰にもわからない。

ただ一つわかることは、この巡り合いが幸福であること。

幸福の形をした、自分の生きる意味。
君がここにいる限り。
この胸が脈打つ限り。

  貴方のことを愛し続ける。

 
――そう、約束しよう……。