第546回定期演奏会 3月17,18日 vol.2
 

それでは大学の同級生でもあり、学生時代から自主公演を一緒に企画したり、いつも音楽談義をしていた石田から幾つか質問をしてみます。

 

ーーー今回代役のお話しを頂いて真っ先にどう感じましたか?

 

「ベドヤさんが来日できない時のスタンバイ指揮者として準備しおいてほしい」と連絡があったのが、昨年秋ごろ。武者震いしました。

 

この時点で私が指揮する可能性はかなり薄かったですが、

大フィルさんに代打とはいえ指名してもらったことが嬉しかったです。

 

でも、もしかしたら指名云々は関係なく単に私の顔がラテン系なので「こいつに振らせたら曲想に合うかも?」という理由で選ばれたのかもしれません。

 

ともかく、本番を振るかどうかは関係なく、知らない曲もあったのでこの際勉強してレパートリーにしようと思いました。

時間はたっぷりありましたし。

 

 

ーーー今回のプログラムはもともと決まっているプログラムを引き継いで行いますが、齊藤さん自身にとってはどのようなプログラムですか?

 

出演予定だったペルー出身の指揮者、ベドヤさんの選んだプログラムは理路整然としています。

私には思い浮かばないような熟考された演目で、そのまま受け入れようと思いました。

 

3人の作曲家は同世代。

年齢順にラヴェル、ファリャ、トゥリーナです。

 

少しだけ年上だったラヴェルが印象主義音楽を牽引する寵児だったわけですが、

20世紀がまだ明けたばかりの頃ファリャとトゥリーナは、

いわばスペイン代表の在外派遣長期育成作曲家として、最先端の音楽語法を学ぶためにパリにやってきたわけです。

 

「スペイン狂詩曲」はラヴェルの管弦楽デビュー作品(1908年)。

そして、それを聴いた二人はとてつもない衝撃を受けました。

 

1912年にはラヴェルの代表作となる「ダフニスとクロエ」が発表され、二人は管弦楽の魔術師と自分たちの実力の差を大いに痛感したでしょう。

「三角帽子」(1917年)、「幻想舞曲集」(1920年)はファリャとトゥリーナがフランス音楽のテクニックを存分に吸収して母国で書きあげた作品。

 

メソッドこそフランス風ですが、スペイン風味がテンコ盛りです。

また、二人が無二の親友だったことは「三角帽子」の初演をトゥリーナが指揮したことからもわかります。コンチェルトに「ピアノ協奏曲ト長調」を置くセンスも素晴らしい。

 

ラヴェルの故郷はスペインの国境沿い、海に面した美しい街。この曲はデビューの「狂詩曲」以後、晩年のラヴェルが音楽の中で再び生誕の地に帰った作品です。1楽章の冒頭のピッコロ主題なんてスペイン舞曲そのものです。

 

『ベドヤさんの出身地ペルーですが、どこにあるか知っていますか?』

南米のアンデス山脈の連なるところ、地図上ではチリの上、ブラジルの左隣です。そこに生まれたベドーヤさんが何故このプログラムを思いついたか?不思議ですね。

 

ここからはあくまでも私の想像です。

ペルーは16世紀から長い間スペインの植民地支配下にありました。

この国にクリスチャンが多いのはカトリック教会がたくさんできたからです。

首都リマでは現在でもスペイン音楽やスペイン舞踊がさかんで、ベドヤさんは幼少からそれらに親しんでいたはず。

そして彼の経歴を見ると西洋音楽の英才教育はもちろんですが、並行して舞踊学校に通っていた、とあります。

つまり、音楽のみならず、踊りもとても上手い指揮者なんです。

今回の演目はまさにスペイン舞踊のオンパレードですし。

私もベドーヤさんの如くありたいと思って、

ファルッカ(三角帽子の2曲目に現れるフラメンコや、トゥリーナの3曲目「饗宴」)のレッスンに通いました。

激烈な踊りですから公園で練習している時など、かなり変な目で見られました。

 
 

ーーー昨年は3回、大フィルの公演に登場して下さってオケのメンバーとも顔馴染みが増えてきたと思いますが大フィルの団員へメッセージをお願い致します。

 

大フィルさんのリハは毎回緊張します。

 

それで早口になったり、表情が硬くなったりしました。     

今回、三日間練習があるのでせっかちにならず、リラックスして、ちゃんとコミュニケーションしたいものです。

 

皆さん一人一人がこだわりを持った音楽を持っていることを私は知っていますし、本当に尊敬しています。

まさかの定期デビューとなりましたが、気合100%で挑みますので何卒よろしくお願いいたします!!

 

ーーーまた聴きにいらしていただくお客様にこのコンサーの聴きどころをお願い致します。

 

聴きどころは全部です。

ソリストの菊池洋子さんのピアノも素晴らしい。

4曲全てにスペイン色が入っていますが、色彩の素材や配合がそれぞれ独特で、管弦楽ならではの音のうねりがホールにこだまするでしょう。

ちょっと気が滅入っていたり、心の中の感動の灯が弱くなってしまった方がたくさんいらっしゃると思います。

 

それらを再生復活させる、つまり、精神が元気になるためには打ってつけのプログラムです。ちなみに4曲全て熱狂(ff、あるいはfff)で終結します。

 

もちろん私は脳天から爪先まで春爛漫で指揮台に立つつもりです。大フィルファンの皆さま、是非フェスティバル・ホールで感動を共有しましょう!