こんにちは!
今回は、コンサートマスター 須山暢大、Vc.トップ奏者 諸岡拓見、2nd.Vn.トップ奏者宮田の3名が参加したリモート弦楽合奏動画について、宮田よりご紹介させていただきます♪
この動画は、NHK交響楽団ヴィオラ次席奏者中村洋乃理氏が開設したYou Tubeチャンネル【Bratschannel】(Bratscheブラッチェはドイツ語でヴィオラを意味します。)の1つとして企画されたもので、日本各地26のオーケストラより総勢33名が参加しました。
今回の弦楽合奏の企画を行った経緯などを中村氏に伺ってみました。
宮田 「今まではヴィオラアンサンブルを主に取り組まれていた中で、
今回は”弦楽合奏”という大掛かりな企画をやってみようと思われたきっかけや、この企画への思いを聞かせていただけますか?」
中村 「3月4日のN響のブリュッセル公演を最後に全ての演奏会がキャンセルになり、しばらくは家で基礎練習をしたり、時間が無くて練習出来ていなかった様々な曲を譜読みしていました。
小学3年生でヴァイオリンを始めた時からジュニアオーケストラに入って弾いていた僕にとって、「他の人の音を聴きながら弾く」事が出来ない期間が続く事は初めての経験で、1ヶ月もたたない内に誰かと弾きたい熱が高まりました。
しかし、新型コロナの影響で「密」に共演する事は叶わない状況。
そんな中、SNSでインターネットを通じたアンサンブルの存在を知り、目から鱗が落ちる思いを味わいました。
まず最初に思い当たったのが、今まで一緒に弾きたかったけれども共演が叶わなかった各地のヴィオラの友人達と演奏する事でした。インターネットを使ったアンサンブルには距離も時差も関係なく、更には録音したものを自分で聴き、映像を客観的に見る事が出来るのは自分で自分をレッスンするような不思議な感覚でした。
ヴィオラのアンサンブルは今までにもやった事がありましたが、今回は日本のみならず外国に住んでいる友人にも声をかけ様々な曲を録音しました。 (※1注釈参照)
沢山の曲を収録するうちに、他の楽器とのアンサンブルにも挑戦したらどうなるかな?との思いが湧いてきました。
その時には各地のオーケストラが独自の配信をスタートしており、自分に出来る事は何だろう?と考えるうちに学生時代の友人や仕事を始めてから関わりのあった方々が全国のオーケストラで活躍している事、そしてその全員に声をかけたら面白い事が出来るかな、と思いつきました。
閉塞感溢れる世の中で、せめて弦楽アンサンブルでは希望に満ちた曲を演奏したいと考えた時に真っ先に浮かんだのはホルベルク組曲。
1人2人と録音を重ねていく内に音楽の響きがどんどん広がり、想像以上のすごいモノが出来ていく喜びに震えました。
新型コロナによる音楽活動の自粛が始まった頃に友人達と音楽界のために自分達に出来る事はないかと話し合いをしていた事もあり、今の全国のオーケストラの危機的な状況と、それぞれのオーケストラへの寄付のリンクを今回の素晴らしい演奏と共に拡散する方法を思いつきました。
今回の演奏には一緒に演奏してくれたメンバーみんなの想いがあると思います。
この想いと共に今の状況を乗り越え、数年後に「あんな時期もあったよな」と振り返れる日が来る事を強く願います。」
宮田 「演奏会の中止が相次いだ自粛期間には、人と一緒に演奏したい!という思いに溢れたこと、私も共感しました。
私もその気持ちが抑えられず、2本のヴァイオリンのためのデュオの演奏を自身で録音し、それと共に演奏するなども試してみたりしましたが、2つの声部は重なっても奏者が同じだと何か物足りなさを感じることもありました。
そのため、今回これほど大人数の弦楽器奏者が重なりそれぞれの個性の違いもあり、1人で重ねたものとの大きな差と興味深さを感じました。
また各オーケストラの財政的厳しさに直面していることに対して、動画と共に寄付受付リンクを拡散するというアイデアも素晴らしく、3人の大フィルメンバーに声をかけてくださった中村さんに感謝の気持ちでいっぱいです。」
中村 「こちらこそ皆さんが快諾してくれて嬉しかったです。」
宮田 「私にとっては33名のうち同級生が4名もいたり、その他にも音楽を勉強してきた中でよく知る同世代も多く、各地のオーケストラで活躍する皆さんと音を重ねることがき、とても嬉しい気持ちで収録をしました。
リモートならではの難しさを感じた点もありました。
ホルベルク組曲第1楽章は旋律、伴奏の両者において基盤となるリズムを、第2ヴァイオリンにおいては様々な強弱や表情で楽章全体を通して支え続ける役割があり、実際に弦楽合奏で演奏する際は視覚と聴覚の両方を使ってパート1人1人の音と束になる意識を体感しながら演奏しています。
ですが、今回は諸岡くんを含めた各パート1人ずつの演奏が重なったものに対して(第1ヴァイオリン 、第2ヴァイオリン ヴィオラ、チェロ、コントラバスの5パート)耳だけを頼りに収録したので、複数人でのパートとしての一体感を想像しながら演奏することが容易ではありませんでした。
しかし、メンバー全員の音が重なったものを聴くと、そこには様々な情熱と個性を持った音たちの姿があったので、とても感激しました。
各地離れた場所でオーケストラに所属している音楽家同士は、ある意味一緒に演奏できる機会というのは滅多にないことですが、このような形で重ね合うことができ、光栄でした。」
中村 「僕も今回改めて日本全国を見回してみて、こんなにも素晴らしい友人に囲まれてるんだな、と思いました。
まず最初に僕が1人で録音したのですが、それが難しい…ずっとオケスタを弾いている様な感覚でした。
しかも友人とはいえ、他のオケの方々に聴きながら弾いてもらうというのは、なかなかのプレッシャーでしたね(笑)
でもどんどん送られてくるみんなの演奏を聴いて、重ねるうちに苦労してよかった!と感じました。こんな時期でないと出来ない事でしたね。」
宮田 「色々なお話聞かせていただき、共感する部分が多々ありました。ありがとうございました!」
須山氏、諸岡氏にも取り組んでみた感想を伺いました。
須山
「今回、僕はパート一人ずつ録音されたものに合わせて弾いたのですが、テンポ感や音程を掴むのに苦労しました。何回も録り直したんですが、前回気になった所が出来てもまた他の箇所が気になったりと…(笑)無限ループに陥る前に良いものが録れたので良かったです(笑)
やはりこの苦労はリモートアンサンブル独特のものだと思いますので、今回のメンバーで実際に集まって音を出せたらどんなに素晴らしい事だろう…といつか実現出来る事を願いたいと思います。
日本中のオーケストラメンバーのエネルギー溢れる音色はやはり企画者である中村さんの人徳があっての事だと思います。素晴らしい企画に参加が出来て、本当に光栄に思います。まだまだ予断の許さない状況が続きますが、今回の音色のように音楽の持つパワーを信じ続けていきたいと思います。改めて感じる事が出来た貴重な機会になりました。」
諸岡
「僕はアンサンブルの最初の雛形をつくるところから参加させていただいたのですが、ヴァイオリン+ヴィオラの方の音を聴きながらそれに合せる作業がとても大変で、何回も何回も撮り直しました。
本来アンサンブルは同じ空間にいて人の空気や気配を感じながらコミュニケーションを重ねていくような感覚なのですが、今回は元々あるものに如何に正確に重ね合わせるか…というところに焦点が置かれるので全くの別物で、若干神経をすり減らすような作業でした(笑)
ですが苦労して産み出した後、自分たちの音にどんどん皆さんの音が重なっていく過程はとっても楽しいものでした!
特に最初は無かったコントラバスが重なった時は、コントラバスの存在の大きさをこれでもかというほど実感し興奮しました。
現実ではお会いしたことのない素晴らしい音楽家の方々とみんなでひとつのものを作っていくことはとても新鮮で、今この状況だからこそ出来たことだと思っています。」
中村氏の編集によって、音と共に映像でも、各パートの聴きどころが視聴者に伝わりやすいように工夫されています。
全体を見たり、各奏者やパートに注目したり、是非色々な楽しみ方でより多くの方にご覧いただけたら嬉しいです♪
各オーケストラや音楽家が『今できること』を必死に模索しながら活動させていただきたいと思っています。
動画タイトル『日本中のプロオケメンバーと本気でホルベア』右横の▼をクリックいただくと、各オーケストラの寄付受付リンクが掲載されておりますので動画と共にそちらもご覧いただけたらと思っております。
【注釈】
※1 【Bratschannel】のヴィオラアンサンブル動画で、過去にはVa.トップ奏者木下も参加したものがあります。