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先週観た映画「千年の愉楽」の感想です。

中上健次の同名小説が原作。三重の尾鷲湾をのぞむ山あいの「路地」といわれる集落を舞台に、男たちの生命と宿命が燃えさかる。

主人公である3人の兄弟は、「中本」という、かつて高貴な一族の末裔だという。この一族は零落してこの地に流れ着いたが、みな周囲の女たちを騒がせるような男振りで、それゆえ、代々の男たちは女により身を滅ぼされてきた。

その宿命に抗い、あるいは翻弄されながらも、男たちはひたむきに生きていく。
ほぼ全てが路地でのロケにより撮られた映画。この中本の男たちのクローズアップが続く。彼らのあがくようなひたむきな生き様と、その煌めきと悲しみがくっきりと浮かんでくる。また映画の各所に挟まれた奄美大島のシマ唄と三味線の音色により、なにか神話の中の物語のように観る者に伝わってくる。

特に、その中本の男たちを演じた高良健吾と高岡蒼佑が印象的だった。高良健吾は匂い立つほど美しい半蔵の役、そして高岡蒼佑は悪事を働くものの人懐っこい表情が憎めない三好の役、どちらも魅力的だった。

そんな男たちの姿を、産婆として赤子の彼らを最初に取り上げたオリュウ(寺島しのぶ)の視点でのナレーションが入る。
善悪などの価値観で彼らを否定的に裁くのではなく、産婆のオリュウの視点で、彼らの生きようとする姿を見守り続ける。

それぞれの生き様は、時代も昔の話であり場所柄も自分には縁もゆかりもない土地の話であるなど、自分とは時空が異なる物語ながら、男たちの懸命な生き様は確かに私自身の物語として、自分にも迫ってくる。

魂の入った、いい映画だった。昨年10月に交通事故で亡くなった若松孝二監督の作品はあまり多くを観ていないので、今後機会を捉えて観ていきたい。