私の頭の中のお花畑

一度遊びにいらっしゃい

そこにはケンカも戦争もないわ

きれいな花だけが咲いている

私の頭の中のお花畑

摘んだ花束を歌にしてあなたにあげる

「とても素敵な歌だね平林くん」

クラスメイトの副学級委員長、大川実友が平林兼次に小声で囁いた

しかし兼次はどこか『およげたい焼きくん』のメロディに似た調子っ外れのこの歌がいいとは少しも思えない

それよりあともう少しで始まる『プレイガール』の再放送のほうが激しく気になって仕方なかった

だが昨日の掃除当番を月子に見逃して貰った恩に報いなければいけない


放課後、小学校の離れにある物置小屋のさらに裏、去年までいた用務員のおじさんが密かにじゃがいもやホウレン草を植えていた畑の跡での吉田月子コンサートに兼次、実友、そして田ノ倉松吉は招かれていたのだった。

「みんなどうもありがとう、今の歌は世界平和の祈りを込めた『私の頭の中のお花畑』でした。次の歌は…」

「兼ちゃん、プレイガールが観たいよ…」

松ちゃんが弱音を吐いた

「オレだって見たいよ松ちゃん、でも約束は約束だ…」

「プレイガールは今日も絶対パンチラ以上の事が起きるハズなんだ…」

「平林くん、田ノ倉くん君たち不真面目だよ、月子さんがあんなに真剣に世界平和を歌っているのにエッチなドラマの話なんかしちゃダメだよ」

実友が絵にかいたような優等生の口調で二人を叱った

「でもな、大川くん月子が本当にアイドルになれると思うのか?」

松ちゃんが実友に尋ねた

「僕はあんなに真剣に歌う月子さんならなれると思う」

実友は真顔で答えた

「麻丘めぐみちゃんをライバルにしたら勝てると思うのか?」

兼次が実友に尋ねた

「そ、それは…」

美少女アイドルとしてクラスでもファンの多い麻丘めぐみの名を出され、実友は黙った

「アイドルはな恐ろしいぐらい美人で可愛い女の子たちが競争しているスゴい世界なんだぞ、月子を見ろ、月子のお母さんとそっくりな普通の顔だ、残念だが麻丘めぐみちゃんに勝つのは不可能に近い!」

『プレイガール』見たさからか松ちゃんは強い口調で言ったそのとき…

「全部聞こえてるよ松ちゃん」

月子がニコニコ笑いながら三人を見ていた

「月子、ゴメン、冗談だ…許してくれ…」

手が汗ばむ感触を覚えながら松ちゃんが頭を下げた

「麻丘めぐみちゃん、可愛いよね♪でもね、私は夢の中でお告げを聞いたのよ、世界の平和のために歌うアイドルになりなさいって天の声を聞いたの…だからアイドルになるの」

ニコニコと笑う月子だがその異様な気迫に兼次、松吉、実友は言葉を失った

「次の歌は、昨日、毛虫を見つけた時にその脇をゴキブリが走っていて、そしたら心のなかに浮かんだ言葉を歌にした新曲を歌います。歌は『気持ち悪いけど生きている』」

怖くて気持ち悪いけれど

毛虫は生きている

病原菌をばらまいているかもしれないけど

ゴキブリも生きている

そして君も私も生きている

好きな食べ物なんですか

好きな人はだれですか

毛虫は葉っぱが大好きで

ゴキブリもきっと恋をする

殺虫剤をひととき止めて

耳をすませて聞いてみた…

(どこかお経に似ている…)

兼次はそう思ったがひたむきに朗々と歌う月子の姿にいつしか引き込まれていた

それは松吉も実友も同じだった

少しずつ、少しずつ、月子はひとつの磁場を形成しながらモンスターへの成長をはじめていた…


~弐
夢みる娘の唄う歌~