「アイドルになります」

吉田月子ははっきりと大きな字で短冊にこう書いて「ふふふ…」と笑った。

「なあ、月子、お願いするのに『アイドルになりますは』は変じゃないか?」

クラスメイトの田ノ倉松吉が月子の短冊をのぞきこんで言った。

「松吉くん、勝手に人の短冊見ないでよ。松吉くんはどんなお願いしたのよ」

と、松吉の短冊を松吉が隠す暇もなくサッと取り上げた

「バカ!返せよ!!」

「なにコレ」

『牛と戦いたい!牛に勝ったら次はクマと戦いたい!!』

マジックインキで幾重にも重ねた太文字で書いてある

「どうして牛やクマと戦いたいの?」

月子は松吉にたずねた

「まっちゃんは世界一強い男になりたいのさ、だから今、にちぶ会の通信教育で空手を習って修行してるんだぜ」

答えたのは同じクラスメイトで松吉の親友、平林兼次(ひらばやしかねつぐ)だった…

「世界一強い男になってどうするの?」

「世界一になったら宇宙一を目指すのさ!」

耳まで真っ赤になりながら松吉はごにょごにょと言った

「でもさ、まっちゃん、宇宙人はいないってこの間11PMでフジモトギイチが言ってたぞ」

ニヤニヤしながら兼次が言う

「だからロマンなんだよ」

次第に松吉の目から光が失われてゆく

その時

「叶うよ、きっと!」

月子が力強く言い放った

「私、叶うと信じているから『アイドルになりたい』じゃなくて『アイドルになります』って書いたんだよ!まっちゃんも信じて努力すれば、牛に勝てる、宇宙人にも勝てるよ!」

月子の声がクラス中に響き渡った

傍らで兼次がゲラゲラと笑いだす

「笑っている兼ちゃんはどんなお願いを短冊に書いたの?」

兼次が隠す暇もなくまたもやサッと短冊を月子が取り上げた

ミミズの這ったような文字がこう踊っていた

『みねふじことやりたい』

「なにコレ…述語が抜けてるよ、何をやりたいの?」

月子は兼次に真顔で訊ねた

「い、色々さ…」

兼次はひきつり笑いを浮かべた

「兼ちゃんマンガの中の人だぜ」

松吉がゲラゲラと笑った

「松吉くん、笑ってはダメ…たぶん、叶うよ…兼ちゃん、きっと、みねふじことやれるよ!」

月子は瞳をキラキラ輝かせながらにっこりと優しく笑って言った

松吉と兼次の祈りはあえなく彦星に叩き落とされたが月子、小学五年生の七夕の祈りは天に通じ、やがて数奇な運命を辿ることになる

日本を震撼させたミラクル月子の伝説はこのときゆるゆると動き始めたのだった


~序
夢見る子らの書く夢は~


出演

吉田月子

平林兼次(特別出演)

田ノ倉松吉(友情出演)

書き手

大門屋健作