霧のおかげで足軽隊の撮影が切り上げられた…(-_-#)

鉄砲隊の撮影に移りますと言われ火縄銃を渡される、
ズッシリと重い本格的な小道具、
エキストラの面々から
「カッコイい♪」
「欲しい!」
という声が漏れる…(-_-#)
コイツをお城に向けて一斉に射撃するシーンの撮影をするとの事でお城のセットの真下に集まる、

男というのは銃火器に弱いもので足軽隊よりテンションが上がっている…(-_-#)/))

「火薬が三個入ってます、合図に合わせて三回引き金を引いて下さい」

と、助監督さんの指示、
本物の火縄銃は単発だが撮影用のこの火縄銃は三連発なのだ。
これはカメラの性質を考慮した仕掛け、
映画フィルムとは一秒間に24回のシャッターが降りたり開いたりして連続撮影することによって動画が撮影される仕組みなのだがシャッターが降りている瞬間は当然撮影されていない、
その撮影されないコンマ数秒のタイミングに鉄砲の火花が発せられるとスクリーンには煙だけが漂う鉄砲が映るだけなのでそれを避けるため、火花をフィルムに焼き付けるために三連射するのだという説明だった…(-_-#)

黒澤監督の号令でカメラが回る

「撃てーっ!」

助監督さんの合図で鉄砲隊が一斉射撃、

私の耳でさえ分かるぐらい銃声がバラバラ…当然NG…(-_-#)


火薬を詰め直して再びトライ、

今度は不発が目立つとまたNG、

三度目は霧が深くなってまたNG…(-_-;)

四度、五度…不発と霧でNGが重なってゆく…
苛立ちが現場を支配する、
なんせさんざん霧に阻まれて昼過ぎまで数えるぐらいも黒澤監督のオッケーが出ていないのだ…(-_-#)

「もう少し霧が晴れるのを待とう…ダメなら今日は終わりだ…」
黒澤監督が言った。

休憩になり私は隊列を離れた、
足軽隊の撮影の時より近くにいる黒澤監督をもっと間近で見たかったからだ…(-_-#)

おそるおそるディレクターズチェアがあるあたりに近づいてゆく、
立ち上がり霧深いあたりを見渡している黒澤監督が見えた…(-_-#)

大きな方だ、
実際に180cmと大柄な方だがさらに大きく見える、

(ああ…世界のクロサワが目の前にいるんだ…)

なんだか泣きそうになった、

私はこの数メートル間近で見た黒澤監督を、この後起こった出来事を生涯忘れないだろう…(-_-#)

黒澤監督がくるりと背を向けて霧の中に向かって歩いてゆく、
次第に霧に隠れてゆく監督…

(このまま今日が終わってしまうのは嫌だな…)

そう思ったときにそれは起こった…

スーッ…

今まで深くなる一方だった霧が突如としてひいてゆく、

「今だ、行くぞ!」
黒澤監督が振り返って走って来る、

「黒澤明は嵐を呼び、雲を晴らす」
嘘のような逸話を色々な本で読んだことがあるがまさにこの光景は伝説そのままだ…と、思った…(-O-;)

私は慌てて隊列に復帰した…

「これが今日のラストカットだ!」

黒澤監督の檄に鉄砲隊が城めがけ銃を構える、

テンションがピークに達したその時、不思議な感覚が突然襲ってきた、
空気が凝縮してゆくような、空が低くなってゆくような不思議な感覚だ…

「撃てーっ!」

引き金を三回引く、

頭の上で全員の銃声がひとつの音になって聴こえた…(-_-#)

「よし!オーケーだ!」

黒澤監督が今日初めてハッキリとオーケーを出した。

私は呆然としていた、
さっきの異様な体験と言葉にならない満足感で泣きそうになっていたのだ…(-_-#)

周りのみんなが
「今、なんかスゴかったよな…」
「感動した…」
と、口々に言っている、
私だけではなく、鉄砲隊のみんなが何かを感じていたのだった…(-_-#)

『映画の神様』はいる。
ひたむきに映画を愛する者に応えてくれる何か見えない力があるのだ…

素直にそう思った。

黒澤明監督はまさに映画の神様に愛された方だったのだ…

これは私にとって宝物のような一日の記憶だ。



『映画の神様』
おわり…(-_-#)/))