ああ、ぼくは父さんが、まだ元気だった頃、

15年前位だったかな、いっそのこと何もかも

捨てて、貯金通帳とキャッシュカードと、初恋

の人の写真だけ携えて、地元から出ていこう

としたことも何回か考えたこともあったっけ。

 おれは、朝っぱら(午前7時ころ)、茶の間

で新聞読んでる父に、「おれ、ちょっと出かけて

くるワ」と言って、外出した。父はふつうに

「ああ、そうか」と言ってただけだった。

おれは地下鉄にも乗らず、かなりの長距離

の外来で通院してる病院まで、なんと歩いて

行った。そして病院の敷地でずーっと夜中近く

の10時までいた・・。当時スマホはまだなく

携帯だったが、おれはずーっと電源切ってた。

 おれは何のあてもなく、汽車にでも乗って

どっかいこーっト、って思ってた。

 

 おれは、頭の整理整頓ついてなかった。

 例によってキツネやタヌキにたぶらかされて

たのだ。結局おれは真夜中の12時に無事

うち戻った。地下鉄の終電に間に合った。

 携帯電源ONにしたら、留守電全然ゼロだった

?? うちに帰って、おれが「ただいま・・」と

いうと、父はふつうに、ちょっと笑って「ああ、

おかえり」と言ってただけ。あとはその日は

寝て、次の日いつもと同じ普通の生活してた。

あとは、おれは奇矯に走るということは一切

なかった。じぶんの口からいうのも何だが、

真面目な働き者のオレさ。ただ考えすぎる

のだ。おれの父さん、何んの根拠もないこと

愁いたるするひとでないからね。いつまで

たっても戻らないおれのことを、「また、こいつ、

おかしな考えに憑かれたんだろう、放っとこう」

と思ったのだろう。今年は父の三回忌である。