僕は昔から外国人、日本人を問わず人から道を聞かれることが多い。しかし僕は人見知りで、しかも道案内が出来る程地理には詳しくないので、彼らの期待に応えられないのが現実だ。大学4年の時には、いかにもアラブ系といった男性に、聞いたことも無いような訳の分からない外国語で話しかけられて思わず逃げ出した事だってある。道に迷って困った人には、僕のバカ面が愛情たっぷりの慈悲深い顔として映るのだろうか?その答えは、実際に道に迷った時に鏡で自分の顔を見る以外になさそうだ。
しかし何といっても印象深いのは僕が高校生の時にあった出来事である。僕はバイト先へ行く為に駅のホームを歩いていた。すると突然、本当に突然、髪の毛がボサボサで幸薄そうな中年男性が、携帯電話片手にピョコっと目の前に飛び出してきたのだ。あまりの突然の登場に僕は「ヒッ!」と言って思わず仰け反った。するとその中年男は無言のまま、手にしている携帯電話を僕の顔の方へグーッと近づけてきた。彼の意図が全く分からない。「な、何なの?」そう言うのが精一杯だった・・・半分裏声になっていたと思う。そんな僕のリアクションなんか気に留めることなく、彼は無言のまま僕の顔の前で携帯電話を上下させた。どうやら「俺の携帯電話に出ろ」という意味のジェスチャーらしい。もちろん電話に出たくはなかったが、電話に出なければ何をされるか分からない、と思った僕は彼から電話を受け取るとソレを耳に当てた。すると電話の向こうから、ものすごく中国語のキツイ日本語で「カレニ ○○駅マデノ イキカタ オシエテアゲテ」と聞こえてきた。目の前の中年男に目をやると、初めて彼は中国らしき言葉を何やら僕に言ってきた。そう、つまりその中年男は日本語の全く話せない中国か台湾か韓国の方だったのだ。初めて来た日本で迷ってしまい、日本語の話せる友人か家族に電話したのだろう。そしてさらに助けを求めたのが、この僕だったと言う訳だ。ようやく状況が理解できた僕は安心して「OK、OK」と言った。運良く彼が行きたい「○○駅」は僕のバイト先の最寄り駅だった為、一緒に電車に乗って行く事となった。
未だに僕はこれ以上印象深い道案内をしたことがない。