決まって雨の日にあの子は訪れる。
あのときもそうだった。
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連日続く、雨によりショッピングモールの中は閑古鳥が鳴いていた。
それを良いことに、俺が店を早々に閉めて、床に大の字で寝転がり竹原ピストルを流していたときのことだった。
「夜に不似合いな曲ね。」
どこからともなく女の声が聞こえてきた。
気づいたら、大の字にふんぞり返っている俺の隣に女の子が立っていた。
俺は彼女の顔を見たわけじゃないが、話し方と足元でそう判断した。
「お嬢さんには分からないよ、男の音楽ってやつさ。」
このときたぶん初対面ではあったが、別に何も思わなかった。
このへんの奴らの辞書に人見知りなんて言葉はなかった。
知らないやつから話しかけられるのは日常茶飯事なのだ。
「なによそれ。竹原ピストルでしょ?私も聞くわよ。」
俺は驚いた。女の子がピストルを知っていることにじゃない、彼女が青い瞳に黄金色のロングヘアーという容姿だったからだ。
時計は夜の11時を回っていた。
この時間にこのショッピングモールにいるのは従業員のみということになる。
ということは、この少女もどこかの店の従業員なのだろうか。
その容姿で今まで気づかないわけがない。
新人なのか。昨日今日働きにきたばかりだから気づかなかったのか?
「あなた、悪い人?」
俺の無駄な考えを断ち切るように、彼女が言った。
しかし、困った。また考え込みそうな案件を投げつけられた。
悪い人とは、どういうことだろうか?
というか今時そんな言い回ししないだろう。
殺人?強盗?そういう類のことを言っているのか?だとしたら俺は良い人だ。
しかし、レジの閉め作業もほったらかしにして、音楽を楽しんでいる俺は、良い人と言えるだろうか。
会社からしたら、当然、悪い人だ。
いや、俺は普通の人だ。そう、普通なんだ。
正しいことだってするし、間違ったことだってする、よく寝坊しちゃうけど、炊事洗濯はしっかりやるほうで、ブラックコーヒー飲めないのに周りに合わせて飲めるふりしたり、新聞は読まないけど空気は読むし、あの子とセックスだってしたいし、少年ジャンプの主人公にだってなりたい。
そういう色んな悩みがありながら頑張って生きてるどこにでもいる普通の人だ。
おいちょっと待て、おれ頑張って生きているか?
そもそも頑張っていきてるというのは主観でしかない。
誰の判断で決めればいいのだろうか??
「ねえ!聞いてるの?!」
またもや彼女の声が俺の思考を停止させた。
「あなた、悪い人なの?」
しばらく音楽だけが流れていた。
「まあ、たぶんそうなんだろうな」
結局、答えが出なかったので、もう悪い人にした。
すると、彼女は綺麗な黄金色の長い髪を耳にかけてくしゃっと笑って言った。
「それは良かった。じゃあそんな悪人のあなたにお願いがあるの!」
いつの間にかピストルのアルバムも終わっていた。
店内に雨が建物を叩く音だけが響いていて、この世界に2人だけ置き去りにされた感覚に陥った。
それでも良かった。それくらい笑った彼女は美しかった。
夜はまだ長い。
月でも出てくれないかな、なんて僕は思った。
つづく