レフリーとの話は以前にもしたことがありますが、今もいくつか質問をいただくので、もう少し具体的な話をしてみましょう。

私はどちらかと言うと、試合中にレフリーの方とコミュニケーションを取るタイプだと思います。タイでは言葉も通じないし、話をしに行くだけで問題が生じることがあるのでほとんど話しに行きませんが、日本では試合中に何度か近くまで行って話をしていました。

近くに行くと抗議をしているように見えたりもするかもしれませんが、私は基本的にはそのような目的のときは行かずにグッと我慢するようにしています。大事なことは試合に勝つことです。感情に任せてレフリーに不満をぶつけて、結果、負けてしまっては本末転倒です。

では近づいて何をしているかと言うと、レフリーの方には分かりづらいことを選手の目から伝えに行っています。レフリーの仕事は本当に大変で、全ての状況を見られるわけではありません。当然、人が判定する限りミスもしますし、タイミングや見え方によってはプレーする側の見方では見られないこともあります。

例えば、プレーする側からすると、正当にプレーしようとしてファウルになってしまったプレーと、初めからファウルをしにいっているプレーは全くの別物です。しかし、見え方によってはそれほど悪質に見えなかったり、激しいプレーではなかったりします。そうしたときに、「あのプレーは良くないですよね。」とか「あのようなプレーはよく見てくださいね。」と一言伝えておけば、また同じようなプレーをしたときに注意して見てもらえると思って、伝えに行っていました。

大事なことはレフリーの立場に立つことです。下した判定に対して不満を伝えるのではなく、これから起こるプレーに対して見てほしいことを伝えるべきだと思います。もちろん、試合中ですので熱くなることもありますが、基本的なスタンスをそこに置いていれば、相手もプロです。伝わるものは伝わると思っています。

また私は試合中に思い出せないとき(笑)以外は、レフリーの方を「レフリー」と呼ぶのではなく、その方の名前で呼ぶようにしています。そして、たとえどんな試合になっても試合後は必ず握手をして、お互いの仕事を讃え合う気持ちを持つようにしています。

そういう私もそうしたスタンスになったのは、プロに入ってからでした。以前にも書きましたが、最初のきっかけは2年目に2試合連続退場をしたことでした。私はプレー面の粗さもありましたが、それ以上に感情をそのままレフリーに向けていました。

そんな自分を戒めながら頭に浮かんだのは、メンタルトレーニングで教わったことでした。メンタルトレーニングの基本的な考え方に『「過去」と「他人」は変えられない、「未来」と「自分」は変えられる。』というものがあります。

いつも思いますが、私がサッカーのときだけでなくプライベートでもイライラする時は、過去のことや他人に対してのことばかりです。しかし、答えはいつも、未来と自分に目を向けることにあると思います。

それ以来、私は少しずつレフリーに対する態度も変えていきました。簡単ではありませんでした。感情的になっている試合中にはどうしても判定に対する不満を口にしてしまうこともあります。それまでのレフリーの方の私のイメージを変えるまでに時間もかかりました。しかし、人は時間はかかってもなりたい自分になっていくもので、今ではレフリーの方ともお互いをリスペクトできる関係を築けたと思っています(多分。笑)。