「タイの選手たちは人前で注意されることをとても嫌うので気を付けた方がいい。」このブログにも何度かメッセージをいただいていますが、タイに来たときにもいろんな方からこのことを言われました。確かに私がタイでプレーしてみて、ここのさじ加減が1番難しいところだと感じています。

私は日本にいたときから、プレー中に細かい指示を出すタイプの選手でした。私の指示は、誰が誰のマークに付け、という単純なものだけでなく、味方選手のポジショニングを数m単位で修正したり、守備のスイッチをどのタイミングで入れるかなど、多岐に渡るものです。流れる時間の中で瞬時に全体のバランスを見て、一瞬で修正点を見つけることには少なからず自信がありました。

タイに来て、そのさじ加減はもちろん同じレベルではできません。言葉も通じませんし、指示を聞きながらプレーする習慣はタイの選手にはありません。怒られることも嫌がる、となればどのようにチームに修正を加えていくかは当然大きな課題でした。

方法は大きく分けて2つあったと思います。1つはタイの選手の雰囲気に合わせてほとんど厳しいことは言わず当たり障りなくプレーすること。もう1つは自分のこれまでのスタイルをあまり崩さず指示を出し、時には叱ることも辞さないこと。もちろんタイに来てどちらの方法も少し歩み寄らせたやり方にはなりますが、いずれにしても気持ちの中で大きく分けてどちらを選ぶか、という選択は必要でした。

私は少し様子を見た後で、結局2つ目を選びました。私にはそれしかできないという不器用さもありますが、もし問題が極力起きないように気を遣って馴れ合いでプレーするなら、私が来た意味はないと思いました。それに、私はいつかタイの選手が分かってくれたらいいとも思っていますが、それ以上に今、勝ちたいからです。

サッカーにミスはつきものです。いくら練習してもミスはなくならないでしょう。しかし、積極的にやろうとしたミスとそうでないミスは全く違うものです。私が注意するのは技術的なミスではなく、やろうとしないミスです。3回、4回とそのようなミスを繰り返しているのを放置していてその試合に勝てるわけがありません。

この選択の方が実はきついものです。自分が注意をしなければここではいくらでも楽にプレーできますが、注意することでまず私が言っていることをやり続ける必要が出てきます。私は指示を出したりする前に、自分が誰よりも走り、戦わなければなりません。

例えば、2チームでパスを回し合うようなパス回しの練習では、ほとんどの選手がジョギングしながらしか守備をしません。そんなとき、私は逆サイドに振られたら、味方選手を追い越してボールを取りにいき、また回されたらまた追い越して、と走り回っています。指示を出す前にやるべきことを自分で示さなくては誰もついてきません。

結果、全ての選手ではありませんが、少なくとも思いは伝わっていると思います。試合中に叱ると確かに反発してくる選手もいます。しかし、試合中なのでそんなことは日本でも同じです。でも、試合後にちゃんとお互い冷静に話したり、相手によって態度を変えたりしないことで、相手もだんだんそれが私の普通だと分かってくれたと思っています。

ただ正直なところ、選手たちが私のことをどう思っているかは分かりません。煙たがっている選手もいるでしょう。しかし、対戦した日本人選手が試合後に「タイにこんなに組織的にみんなで守っているチームはないよ。」と言ってくれたり、サポーターの皆さんが私に「いつもファイトしてくれてありがとう。どんなときもサポートするから続けてください。」とメッセージを下さったりしています。私はそんな声に励まされながら、葛藤は今でもありますが、最後までやり抜こうと自分に言い聞かせる日々を送っています。