『 山 の 職 人 ( 続 ・ 石 の 花 ) 』



前回までのお話し  「山の職人 1」  「山の職人 2」  「山の職人 3」




 カーチャは、手でそっと、その石を動かしてみました。

すると少し石は動きました。

どうやら、そんなに深く減り込んではいないようです。

それでカーチャは、その辺に転がっていた棒きれで、

石の周りから土を取り除き始めました。

土を、出来るだけ取り除くと、石を取り出しにかかります。

石はぐらぐらと揺れます。

するとパキンッと下の方で、

小枝が折れるかのような音がして、石がとれたのです。

この石は余り大きくは無く、厚さは指三本位、

幅はカーチャの、小さな手の平位で、

長さは30㎝位の板のような形をしていました。

これを掘り出したカーチャは、驚きました。



『私が考えていた石、その物だわ。

 この石を切れば、何枚かの飾りが出来るわ。

 それに無駄もほとんど出ないでしょう。』



 早速、石を家に持って帰ると、

カーチャは直ぐに石を鋸で切り始めました。

これがカーチャがする細工の中で、

一番、時間がかかる作業です。

カーチャは、石の細工の仕事をしていない時には、

家事をし、畑を耕し、休む暇も無ければ、

退屈している時間もありませんでした。

しかし、仕事台に向かうと、すぐに

ダニーロの事を考えてしまいます。



『今、ここに新しい職人が生まれた事を、

 ダニーロが見てくれたら、うれしいのに。

 私は、ダニーロプロコピッチ親方の、

 2人の代わりをしているのよ。』



 ところで、どんな村にも、乱暴者やならず者はいます。

この村も例外では無く、ならず者がいたのです。

あるお祭りの前夜の事です。

カーチャは夢中になって石細工の仕事をしていました。

そんな時、3人の若者が垣根を越えて、

カーチャの家の庭に侵入したのです。

皆、お酒を飲んで酔っ払っていました。

カーチャは、鋸で石を、

ギリギリと大きな音を立てながら切っていたので、

その3人が、家のドアの前まで来た足音に、

全く気付きませんでした。

酔っ払いたちが、ドアを開けようとした時に、

初めて、カーチャは、人の気配に気づいたのです。



『おい! 開けろ! 死人の花嫁!

 生きている客を、迎え入れろよ!』



驚いたカーチャは、ドア越しに、



『帰ってちょうだい。』



と言いましたが、酔っ払いたちは、そんなことお構いなしに、

ドアを壊してでも、こじ開けて、中に押し入ろうとしたのです。

今にも、ドアが壊れてしまいそうでした。

そこでカーチャは仕方なく、掛け金を外し、

ドアをパタンとあけると、



『さあ、入るなら入っていらっしゃい!

 誰が最初に殴られたいの?』



カーチャは、斧を持って叫びました。



『おいおい、冗談じゃないぜ。』



若者の一人が言いました。



『何が冗談なもんですか!

 一歩でも敷居を跨いだら、頭をかち割るからね!』



 若者たちは酔っ払っていたのですが、

カーチャが真剣なのだけは、理解できました。

一人前の娘が、肩をいからせ、目を見据え、

慣れた手つきで斧を振り上げているのを見ると、

流石に、中には入って行けませんでした。

酔っ払いたちは、まだわあわあ騒いでいましたが、

やがて、帰っていったのです。

しかしこの事を村に帰った若者たちは、

村の衆たちに話して聞かせたのです。

ところが、村の衆たちは、たった一人の娘に脅されて、

3人して逃げ帰って来たというので、

皆は、この3人の若者をバカにしました。

すると3人は、皆に軽蔑されたのが悔しくて、



カーチャは一人でいたんじゃないさ!

 後ろに、死人の男が立っていたんだ!』



と、嘘をつく始末だったのです。



『とにかく、無我夢中で逃げ出したんだよ。

 そりゃ、恐ろしかったさ。』



 そんな話を、村の衆が信じたかは定かではありませんが、

その頃から、



カーチャの家は気味が悪いとか、

 カーチャが1人で暮らしているのには、

 何かわけがあるに違いない。』



などと、噂が広がって行ったのでした。



~本日は、これにて~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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