『 山 の 職 人 ( 続 ・ 石 の 花 ) 』



前回までのお話し  「山の職人 1」  「山の職人 2」




『とにかく私は、1人でやっていくわ。

 あんた達の選んだお婿さんなんて、まっぴらよ。

 私には、ずっと前から許婚が居るんですからね。』



カーチャがそう言うと、兄姉たちはとうとう腹を立ててしまい、



『後でどんな事になっても、もう知らないからな。

 もう金輪際、俺たちに顔を見せに来るんじゃないぞ!』



と怒鳴りつけました。



『ありがとさん。

 本当に、優しい兄さんたち、

 それに親切な姉さんたち。

 覚えておくわ。

 あんた達も、もう私の近くには来ないでね!』



カーチャは、啖呵を切ってしまいました。

それで兄姉たちは、ドアを勢いよく開けて、出て行くと、

また、勢いよくドアを閉め、帰って行ったのです。



 カーチャは、これで本当に独りぼっちになってしまいました。

最初の内は、寂しくて、泣いてばかりいましたが、

しばらく経つと、カーチャは、



『負けないわ!』



と、自分自身に言い聞かせたのでした。



 カーチャは涙をぬぐうと、家の中の仕事に取り掛かりました。

洗い物をしたり、磨いたり、片付けをしました。

それが終ると、仕事台に向い、

仕事台も、自分が細工仕事をしやすい様に、

道具を片付けたり、場所を移動したりしました。

自分が使わない道具は、遠くに置き、

いつも使う物は、手元に置き、

道具を整理すると、仕事に取り掛かろうとしました。



(飾り板の一枚でも良いから、全部自分でやってみよう。)



 カーチャは仕事を始めてみました。

しかし手ごろな石は、在庫にはありませんでした。

ただ、ダニーロが壊して行った、

チョウセンアサガオの大盃の欠片は、捨てずに取ってあり、

その中には、手ごろな石があったのです。

でもそれは、カーチャが大事にしておいたものでした。

カーチャは、それを特別な物として、

大切に、風呂敷に包んでしまっていました。

プロコピッチ親方の所にも、石は勿論たくさんありました。

しかし親方は、死ぬまで大きな仕事にかかっていたので、

石はどれもこれも、大きな物ばかりだったのです。

小さな欠片は、皆、小さな細工に使いきってしまっていて、

残っていなかったのです。

そこでカーチャは、考えました。



(銅山に探しに行けば、良い石が見つかるかも知れないわ。)



 ダニーロプロコピッチ親方も、

2人とも蛇山で石を採取していました。

それを知っていたので、

カーチャも銅山の近くの蛇山へ、出かけてみることにしました。



 グミョーシキ銅山には、鉱石を調べている人や、

鉱石を切り出している人、運んでいる人など、

多くの人が、いつも働いていました。

そこで働いていた全員が、カーチャを見て、



(この娘は、籠を持ってどこに行くのだろう?)



と、不思議そうな目で見ていました。

カーチャは、皆にジロジロと見られることが気になりました。

そこでカーチャは、人の居ない山の反対側へ回ってみました。

そこは、まだ山肌を切り出していない為に、

木々が多く生え、まだ森と呼べる状態が残っていました。

カーチャは、この森に沿って真っ直ぐに蛇山に進みました。

やがて蛇山へ辿り着くと、そこで腰を下ろしました。

そしてぼんやりとしているうちに、

段々、カーチャは悲しくなって来てしまいました。

大好きなダニーロの事を思い出したのです。

大きな石に腰を掛けると、涙がぽろぽろとこぼれました。

周囲は森だけで人は誰もいません。

カーチャは、ずっと虚勢を張って暮らしていましたが、

ここに来て、腰を掛けたとたん、気が緩んでしまったのです。

涙が沢山、地面に零れ落ちました。

さめざめと、しばらく泣いていました。



 泣き止んで、ふと足元を見ると、

クジャク石があるのが見えます。

ただ石は、地面にしっかりと埋まってしまっていました。

カーチャは、ツルハシも何も持っていませんでしたから、

どうしたらこれを掘り出せるのかと、

手でそっと、その石を動かしてみました。

すると少し石は動きました。



~本日は、これにて~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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