『 ク ジ ャ ク 石 の 箱 ( 続 ・ 山 の 女 王 )』



前回までのお話し  「クジャク石の箱 1」  「クジャク石の箱 2」  「クジャク石の箱 3」
「クジャク石の箱 4」  「クジャク石の箱 5」  「クジャク石の箱 6」  「クジャク石の箱 7」
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「クジャク石の箱 20」  「クジャク石の箱 21」





 ターニャは、クジャク石の壁に寄りかかりました。

するとどうしたことでしょう!



 ターニャの姿は、すっとその場から消えてしまったのです。

ターニャの頭や、首や腕があった壁の上に、

彼女が身に着けていた宝石が、

キラキラと輝いているだけなのです。



 そこに居合わせた者、全員が、あっけにとられました。

女王様に至っては、気を失われてしまい、

床に、ドスンと倒れ込んでしまいました。

大騒ぎになって、皆で女王様を助け起こしました。

しばらくして、騒ぎが収まった時、

仲間の貴族がトゥルチャニーノフに、



『おい、宝石だけでも取って置けよ。

 これは、すぐに盗まれちまうぞ!

 そんじょそこらの家じゃない、宮殿だからな。

 皆、その価値を良く知っているから。』



 トゥルチャニーノフは、宝石を壁から摘み出しました。

ところが、掴んだ宝石は、手の平の中で、

見る見るうちに、水滴に変ってしまうのです。

その滴は、涙の様に澄んだものも、

また、黄色い液体もありました。

血の様な、真っ赤な液体もありました。

どれもこれも全てが滴に変り、

結局は、何一つ、手に残らなかったのです。

しかし、ふと床を見やると、

一粒のボタンが落ちていました。

ガラスでできたボタンです。

どこにでもある普通のボタンです。

がっくりしてしまった若旦那は、

せめてにもと、このボタンを拾い上げました。

するとたちまち、このボタンの中に、

クジャク石の服を着た、緑色の目をした、

美しい女性が現われたのです。

まるで大きな鏡に映っているように、

その光景は、ボタンの中に見えるのです。

高価な宝石を着飾って、ケラケラと笑っています。



『あらあら、藪睨みのウサギっ面の薄ノロ男さん、

 あんたが私を娶ろうっていうの?

 あんたが、私にお似合いだとでも思っているの?

 わらってしまうわね。あはははは。』



 旦那はこれを聞いて、元々少なかった脳みその、

最後の欠片まで失くしてしまったのです。

しかしボタンだけは、手放しませんでした。

そして、その後は、度々ボタンの中を覗き込みましたが、

何度見ても、同じ事が繰り返されるだけです。

緑色の目をした女性が、ケラケラ笑いながら、

若旦那を嘲り、酷い言葉を言うだけなのです。

しょげ返った旦那は、酒に溺れるようになり、

ついには借金まみれになって行ったのです。



 それから・・・

あの「むちうて氏」は、どうしたかと言うと、

あの鉱山をクビになってしまい、

アチコチの酒場を巡り歩き、落ちぶれてしまったのです。

しかし、あのターニャの刺繍だけは、

大事に大事に持ち歩いていたのです。

しかしその刺繍が、その後、

どこに行ったのかは誰も知りません。



 「むちうて氏」の奥さんも、金儲けは出来ませんでした。

若旦那に、借金証書は書いてもらったものの、

若旦那が持っていた、全ての鉱石、

鉄も銅も、すべてが借金の担保に入っているので、

何も、貰う訳にはいかなくなってしまったのです。



 ターニャのことは、その時から、

あの村では、何も耳にしなくなったのです。

まるで最初から、ターニャは居なかったかのように・・・



 母親のナースチャは勿論、悲しみました。

しかしそれは、大したことではありませんでした。

ターニャは、一家の大黒柱でしたが、

ナースチャには、まるで他人の様な子供でしたから・・・。



 それに2人の息子たちも、

その頃にはすっかり大人になって、

それぞれが結婚し、子供も生まれて賑やかになっていたのです。

ナースチャは、目の回るような忙しさで、

悲しんでばかり、居られなかったのです。



 しかし村の若者たちだけは、

美しいターニャの事を忘れたりしませんでした。

いつも、ナースチャの家の窓の下に来ては、

再びターニャが帰って来てやしないか?

と、期待をして、待っていたりしたのです。

しかしとうとう、ターニャの姿は、

その後、一度も、村に現れることはありませんでした。



 村の若者たちは、やがて皆、結婚し家庭を持ちました。

しかし、時折、



『俺たちの村には、昔、綺麗な娘が居たっけナァ。

 もう二度と、あんなに美しい子を見ることは、

 もう決して、無いだろうなぁ・・・』



と、ターニャの事を懐かしく思う事もあるのです。



 それからしばらくして、

こんな事が囁かれるようになりました。

なんだか山の女王様が、2人になったと・・・

一時に、2人のクジャク石のドレスを着た

綺麗な娘を、村の若者が見たというのです。




「クジャク石の箱」 おしまい。




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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