『 ク ジ ャ ク 石 の 箱 ( 続 ・ 山 の 女 王 )』
前回までのお話し 「クジャク石の箱 1」 「クジャク石の箱 2」 「クジャク石の箱 3」
「クジャク石の箱 4」 「クジャク石の箱 5」 「クジャク石の箱 6」 「クジャク石の箱 7」
「クジャク石の箱 8」 「クジャク石の箱 9」 「クジャク石の箱 10」
その頃の管理人という者は、しばらく勤めると、
他の者と交代させられることが、良くありました。
スチュパーンの生きていた頃に居た、
『鼻っつまみのクズ』と、あだ名を付けられた管理人は、
クルイラトーフスコへと左遷、お払い箱になったのです。
『鼻っつまみのクズ』の後釜には、
『焼けた尻』とあだ名がついた管理人が来ました。
鉱山の男たちは、この管理人を、
赤く焼けた鋳物の上に尻もちをつかせたのです。
その事から、『焼けた尻』とあだ名がつきました。
次の管理人は、『北国の屠殺(とさつ)者』と呼ばれました。
この男も、山の女王様に廃坑の穴に投げ落とされたのです。
そしてその後、2~3人の管理人が交代して、
今度の新しい管理人がやって来ることになったのです。
この管理人は、外国人で、
どこの国の言葉でも、話が出来るという事でした。
しかしロシア語は、余りにも下手くそでした。
まともに発音できる言葉は、『鞭打て!』だけです。
それも酷く威張り散らして、『鞭、打てぇぇい!』
と、長く伸ばして言うのです。
どんなに小さな失敗でも、直ぐに怒鳴り散らし、
『鞭、打てぇぇい!』と、喚くのです。
それでこの管理人についたあだ名は、『むちうて氏』でした。
しかし実際には、この『むちうて氏』は、
それほど悪どい奴ではありませんでした。
しょっちゅう怒鳴りはしましたが、
皆を、仕置き場へ送るような事は、しなかったのです。
仕置き人どもは、誰も手持ちぶささです。
だから皆は、この『むちうて氏』が管理人で、
少し、嬉しかったのです。
ところで、この『むちうて氏』が、
この「くさはら村」にやって来たのには、
ちょっとした経緯(いきさつ)があったのです。
領主の大旦那は、この頃はもうすっかり高齢で、
ヨタヨタしていたのです。
だから、世代交代をするために、自分の息子に、
どこかの伯爵のご令嬢でも嫁に貰おうかと考えていたのです。
ところが、この息子にはガールフレンドがおり、
若旦那は、このガールフレンドに夢中でした。
しかし大旦那は、この2人の結婚は認めません。
女の家柄も気に入りませんが、それに何よりも、
結婚をする前から、2人が深い関係になって居ることが、
大旦那には、とにかく気に入らなかったのです。
そんな、ふしだらな女と息子を結婚させたなら、
妻の実家の者たちが、黙っているわけがないのです。
必ず文句を入って来るに違いありません。
大旦那は、それがとても面倒で、怖かったのです。
そこで領主の大旦那は、息子のガールフレンドを、
別の男と、無理やりにでも結婚させてしまい、
息子には、この女との結婚を諦めさせようと考えました。
それにこの女の相手に、打って付けの男が、
大旦那の傍に、すでにいたのです。
それは大旦那の家に居た、お抱えの音楽の教師です。
この教師は、旦那の子供たちに、
音楽や外国語を教えていたのです。
大旦那は、息子のガールフレンドを呼びだすと、
『お前は、これから一生涯ずっと、
後ろ指を指されるような暮らしをし続けたいのか?
息子とは別れて、嫁に行くがよい。
持参金も、たっぷり持たせてやろう。
お前の夫となる男は、今後、
「くさはら村」の管理人にしてやろう。
向こうでは、仕事は順調に進んでいる。
お前の夫の仕事は、ただただ出来るだけ
抗夫たちを、厳しく取り締まりさえすれば良いだけ。
この仕事なら、あの音楽教師にだってやれるだろう。
お前は、くさはら村で、誰よりも
楽で、良い暮らしが出来るぞ。
村一番の金持になるんだ。
村人たちからは、敬われる。
どうだ、名誉な事だろ?
この結婚に、お前は何の不服がある?』
と、言いくるめたのです。
女は、大旦那の言葉に従う以外の余地はありませんでした。
素直に、音楽教師と結婚すると言ったのです。
もしかしたら、女と若旦那は、喧嘩の最中だったのか、
もしくは、大旦那の話に乗る方が、
将来、特だと思ったのか、
『前から、そんな生活が出来たら良いなと思っていたんです。
ですが、なかなか言い出すことは出来ませんでした。』
と、女は大旦那に話しました。
しかし音楽教師の方はと言うと、
『とんでもありません。
嫌ですよ!
どうしてそんな、ふしだらな女を
女房にしなくちゃならないのです。
私の悪い噂が立つじゃありませんか。』
と、大旦那に、がんとして断ったのです。
~本日は、これにて~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
おしまいっ。
