『 ク ジ ャ ク 石 の 箱 ( 続 ・ 山 の 女 王 )』
前回までのお話し 「クジャク石の箱 1」 「クジャク石の箱 2」 「クジャク石の箱 3」
「クジャク石の箱 4」 「クジャク石の箱 5」 「クジャク石の箱 6」 「クジャク石の箱 7」
「クジャク石の箱 8」 「クジャク石の箱 9」
ナースチャはこう言われても、溜息をつくばかりです。
『私だって、あの子の事が解らないんだよ。
あの子は、もともと変わった娘なのに、
あの怪しげな巡礼の女が来てからは、
ますます訳がわからない子になっちまった。
話しかけても、あの子は、
巡礼女からもらったボタンをじっと見たきりで、
私とも口をきかないんだよ。
あの忌々しいボタンなんか捨てちまえば良いのだろうけれど、
あれがあの子の仕事には、役に立つらしいのよ。
絹糸を取り換える時や、困った時、
いつもあのボタンをじっと見つめて、
何か、答えを待っているんだわ。
私にも、見せてはくれるんだけどね、
残念だけど、私には何も見えないんだよ。
娘を打ってやろうかと思う事もあるのよ。
でもね、あの子は一所懸命、マジメに働いているんだよ。
あの子の稼ぎで、私たちは、
まともな暮らしが出来るようになったんだからね。
でもね、思い悩んで私が泣きだすとね、
あの子は、
「お母さん、私の生きる道は、この世にはないのよ。
だから、誰も迎え入れないし、踊りにも行かないわ。
他の人たちをわざわざ悲しませることは無いのよ。
窓辺に座りっきりなのは、仕事をする為よ。
それなのに、何故、私を責めるの?
私は、何か、悪い事をしているかしら?」
って言うんだよ。
こう言われて、私はあの子に何て答えれば良いって言うの?』
確かに、暮しは徐々に良くなっていったのです。
ターニャの手仕事が評判になり、
ターニャの住む村だけでは無く、
よその村や町にまでも、ターニャの腕前の噂が広がり、
注文が殺到して、良い金を稼げるようになったのです。
働き盛りの男たちが稼ぐのと、同じ位に稼げるのです。
ところがちょうどそのころ、
ターニャの家族は、不幸に見舞われてしまったのです。
火事で、家を失ってしまったのです。
真夜中の事でした。
母屋、家畜小屋、納屋、そして家畜たちも、
家財道具の全てが焼けてしまったのです。
着の身着のまま、逃げ出すのが精一杯でした。
しかしどうにか、クジャク石の小箱だけは、
ナースチャが持ち出して無事でした。
そして翌日、ナースチャは、
『この小箱を、とうとう売りに出さねばならないわね。』
と言いました。
息子たちは、それが良いと賛成し、
『でも、決して安く売ってしまってはダメだよ。』
と、付け足しました。
ターニャは、こっそりボタンを覗きこみました。
すると緑色の目の女が遠くに見えて、
売りなさいと、頷いているのが見えました。
この時、ターニャは、とても悲しい気持ちになったのです。
しかしどうすることも出来ません。
お父さんのスチュパーンの形見は、どの道、
あの時に幻想で見た、王様の大広間に居た、
緑色の目をした女性の物になるのですし・・・
ターニャは、溜息をつきながら、
『売るなら、売れば良いわ。』
と、言うと、もうクジャク石の小箱も、その中の宝石をも
全く、見ようともしませんでした。
売り払うことに決めると、どういうわけだか、
商人たちが、すぐに現われたのです。
事によると、小箱を手に入れる為に、誰かが、
ナースチャの家に火をつけたのかも知れません。
こう言う連中と来たら、一度、欲しいとなったなら、
何を仕出かすか、わからない連中ばかりです。
集まった商人たちは、子供らが大きくなったのを見ると、
前よりも金をはずみました。
5百という者もあれば、7百出そうという者もいます。
1千出す!という者もいました。
それは村の人間にとっては、とてつもない大金で、
暮しに必要な物をだいたい買い揃えられる金額です。
それでもナースチャは、2千と言い、ききません。
商人たちは、ナースチャの家に来ては、
何度も、値段の折り合いを付けようとしました。
中には、仲間には言わずに、互いにこっそりと、
値を少しずつ引き上げる者もいます。
誰だって、こんな掘り出し物を手に入れたかったのです。
そうやって商人たちが、
小箱を手に入れようと競い合っている頃、
この村に、新しい管理人がやって来たのです。
~本日は、これにて~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
おしまいっ。
