『 柳 の お 話 し 』
前回のお話し 「柳のお話し 1」
平太郎は、喜んでこの誘いを受け、
柳の木の下に座ると、娘に好きだと打ち明けました。
この日を境に、この近隣の者では無い娘は、
毎日、柳の木の下で、平太郎と会うようになり、
ついに娘は、親や親せき、友達についてなど、
自分の事を一切聞かないと約束してくれるならば、
平太郎と夫婦になっても良いと、言ったのです。
『私には、親も兄弟も、親戚もございません。
ですが私は、あなたの良い妻となりましょう。
私は、あなたを心からお慕いいたしております。』
翌日、平太郎は娘を家に連れて行き、
2人は、夫婦の契りをかわしました。
やがて1年も経たぬ内、2人には男児が誕生しました。
2人は、この子をとても可愛がり、
平太郎も時間を作っては、子守りをしたり、
遊んでやったりしていたのです。
平太郎は、良い妻と子に恵まれ、
幸せに毎日を送っておりました。
しかしこの幸せは、いつ今でも続きはしませんでした。
2人の子が5歳になり、この界隈で
1番の愛らしい子に成長した頃、鳥羽上皇が京(みやこ)に、
観音像を安置する大きな寺を造る事をお決めになられました。
上皇は、慈母観世音菩薩像(じぼかんぜおんぼさつぞう)を
1001体、寄進されようとしたのです。
(現在は、33333体)
鳥羽上皇の発願は、国中に通達されました。
そして朝廷により、この大きな寺院建立のために、
大量の木材集めについても、国中に通達されたのです。
そしてこの勅命は、平太郎の愛した柳の木にも、
伐採の命令が下されたのです。
平太郎は、自分の土地にある木ならば、
いくらでも差し上げるけれども、
この柳の木だけは、伐らずにいて欲しいと、
この度もまた、村人や役人へお願いをしたのです。
しかし、今度ばかりは、その願いは通じませんでした。
頼みの村人たちでさえ、自分たちの村の柳の木が、
上皇のお造りになられる寺院の一部になると思うと、
とても誇らしかったり、
寺院に使われた柳の木を見てみたいと言ったり、
またこの柳の木が、寺院に使われることにより、
この村に幸せをもたらしてくれると考えたのです。
だから、この柳を是非とも寺院建立の為に、
寄贈しようと、村人たちは口々に言い出したのです。
平太郎は悲しみの底に突き落とされました。
その沈んだ気持ちのまま、家へ帰りました。
そして平太郎は、床に就いたのです。
その晩、平太郎も妻も子も眠っている時、
平太郎は、斧で木を切る音を聞いたように思い、
ふと、目を覚ましました。
すると驚いたことに、愛する妻が布団の上にきちんと座り、
夫をじっと見つめ、涙を流していたのです。
『あなた、これから私が言うことを良く聞いてくださいませ。
これからお話しすることは、嘘でもないし、
夢の中のお話しでもありません。
私は、私たちが夫婦になる時、あなたに、
私の身の上を聞かないで欲しいとお願いしました。
それと同時に、何かあった時には、
私から、あなたに身の上は打ち明けるとも、言いました。
そしてその約束を、あなたはずっと守ってくださいました。
しかし今、私から、あなたに、
私の身の上を語らねばならぬ時が、来たのです。
私は、あなたが愛してくださった、
あの柳の木でございます。
あの柳の木霊でございます。
あの時の、あなたのご親切が無かったら、
私は、6年前に切り倒され、川の橋になっておりました。
私は、あの時のご恩に報いるべく、
あなたと共に暮し、あなたに幸せを差し上げたい、
あなたの一生を、
いつまでも喜びで満たして差し上げたいと思いました。
しかし残念ながら、今はもう、
それは叶わぬことと、なってしまいました。
今、あの柳の木は、伐られております。
何度も何度も、斧で私の身体を倒そうとしております。
私は、このままあなたの元を去らねばなりません。
柳に戻り、死なねばなりません。
私は、あの柳の魂なのですから。
愛しい我が子を残して行かねばならないこと、
それが悲しくて、胸が張り裂けそうでございます。
あの子が目を覚ました時、私を探す事でしょう。
あなた、どうかあの子を頼みます。
そして2人で、長生きをして幸せに暮らしてくださいませ。
さようなら、あなた。
もうここをお暇(いとま)して、
柳に戻らねばなりません。
もう間もなく、伐り倒されてしまいます。
どうかお元気で・・・』
~本日は、これにて~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
おしまいっ。
