『 安 寿 と 厨 子 王 』



前回までのお話し  「安寿と厨子王 1」  「安寿と厨子王 2」  「安寿と厨子王 3」
「安寿と厨子王 4」  「安寿と厨子王 5」  「安寿と厨子王 6」  「安寿と厨子王 7」
「安寿と厨子王 8」  「安寿と厨子王 9」  「安寿と厨子王 10」  「安寿と厨子王 11」
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「安寿と厨子王 20」





 住持の曇猛律師(どんみょうりつし)が、

静かに口を開きました。

騒がしい追っ手の者たちも、

律師の姿を見ただけで黙ったので、声は隅々にまで届きました。



「お前たちは、逃げた下人(げにん)を、

 捜しに来られたのじゃな。

 当山では、住持のわしに許可をえなくては、

 何人(なんぴと)たりとて、ここに留(とど)めることは出来ぬのだ。

 わしが知らぬから、その者はこの山に居らぬ。

 それはそれとして、夜陰に剣戟(けんげき)を持って、

 多人数で押し寄せて参られ、三門を開けろと言われたな。

 さては、この国で、大変な戦争でも起ったか、

 公(おおやけ)への、叛逆人(はんぎやくにん)でも

 出来たかと思うて、三門をあけさせたのだぞ。

 それが、なんじゃ!
 
 お前のところの下人の詮議ごときか。

 この山は勅願(天皇陛下がご祈願なされる)の寺院じゃぞ!

 三門には勅額(天皇陛下のご直筆の額)をかかげ、

 七重の塔には宸翰金字(しんかんこんじ)の経文が

 蔵(おさ)めてあるじゃぞ。

 ここで狼藉(ろうぜき)を働かれると、

 この国の守は、検校(けんぎょう)の責めを問われる!

 また総本山の東大寺に訴えたら、

 都からどのような御沙汰(ごさた)があろうも知れぬ。

 そこを良く考えて、さっさと引き取られる方が良いだろう。

 悪いことは言わぬ。 お身たちの身のためじゃ」



こう言って律師は、静かに戸を締めました。



 三郎は本堂の戸を睨みつけ、歯ぎしりをしました。

しかし戸を打ち破り、踏み込むだけの勇気はありませんでした。

手下どもは、木の葉が風でざわつくように囁き合っていました。



 このとき大声で叫ぶ者がいました。



「その逃げたというのは、12~3才の小童っぱじゃろう。

 それならわしが知っておるぞ」



 三郎は驚いて声の主(ぬし)を見つめました。

父の山椒大夫にも見えるような、親爺(おやじ)で、

この寺の鐘楼守(しゅろうもり)でした。

親爺は言葉を続けました。



「その小童っぱはな、

 わしが昼ごろ鐘楼から見ておると、

 築泥(ついじ)の外を通って南へ走って行ったぞ。

 細っこいせいか、身が軽かった。

 もう大分、この先の道を行ってしまっただろうなぁ」



「それじゃ。それじゃ。

 半日に、子供が行ける範囲は知れた物さ!

 行くぞ、続け!」



と言って三郎は、引き返して行きました。



 松明の行列が寺の門を出て、

築泥(ついじ)の外を南へ行くのを、

鐘楼守は鐘楼から見て、大声で笑いました。

近い木立ちの中で、ようよう落ち着いて

寝ようとした鴉(からす)が2~3羽、驚いて飛び立った。





 翌日、国分寺から四方へ、人が出掛けて行きました。

石浦に向った者は、

安寿が、入水し亡くなった事を聞いてきました。

南の方へ行った者は、三郎の率いた追っ手たちが、

田辺まで行って、引き返した事を聞いて来ました。



 中2日置いて、曇猛律師(どんみょうりつし)が

田辺の方へ向けて、寺を出発しました。

盥(たらい)程もある、大きな鉄の受糧器を持って、

腕の太さ程の錫杖(しゃくじょう)を衝いて歩きます。

後からは、頭を剃り、三衣(え)を着た

厨子王(ずしおう)が付いて歩いて行きます。



 2人は真昼に街道を歩き、夜は所々の寺に泊りました。

山城の朱雀野(しゅじゃくの)まで来た時、

律師は権現堂で休むと、厨子王と別れました。



「守本尊を大切にして行くのじゃぞ。

 父母の消息はきっと知れる」



と言い聞かせて、律師は踵(きびす)を旋巡らせました。

この時、厨子王は、

亡くなった姉と、同じ事を言う坊様だと思ったのでした。



~本日は、ここまで~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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