『 安 寿 と 厨 子 王 』



前回までのお話し  「安寿と厨子王 1」  「安寿と厨子王 2」  「安寿と厨子王 3」
「安寿と厨子王 4」  「安寿と厨子王 5」  「安寿と厨子王 6」  「安寿と厨子王 7」





「うるさい!!」



と、佐渡の二郎は、姥竹を蹴り倒した。

姥竹は舟床に倒れてしまいました。

結んでいた髪は乱れ、舷にかかりました。



 悲しむ姥竹は、身を起すと、



「ええい! これまでじゃ!

 奥さま、お先をご免下さいまし!」



そう叫ぶと、真っ逆さまに海に飛び込んだのです。



「こら!!」



と言って、船頭は、腕を伸ばして捕まえようとしましたが、

間に合わず、姥竹は海の底へと沈んでいってしまいました。



 それを見た母親は、袿(うちぎ)を脱いで、

佐渡の二郎の前へ差しだしました。



「これは粗末な物でございますが、

 お世話になったお礼に差し上げましょう。

 わたくしも、もうこれで、この世からお暇を申しあげます」



そう言うと、舷に手をかけました。



「たわけが!!」



と、佐渡は、母親の髪をつかんで引き倒しました。



「お前まで死なせてなる物か!

 お前は、大事な商品なんだぞ!」



 佐渡の二郎は、纜(ともづな)で、

母親を縛り上げると、床に転がしました。

そして北へ北へと、舟を進めて行ったのです。





「お母さま、お母さま」



と呼び続けている姉と弟とを乗せて、

宮崎の三郎の舟は、岸に沿って南へ進んでいきました。



「もう呼ぶな」



と宮崎が2人を叱りつけました。



「水の底の鱗介(いろくず)(魚貝)どもには聞えても、

 あの女たちには、もうお前たちの声は届かない。

 女たちは、佐渡へ渡って

 粟を突きに来る鳥を、追わせられることだろうよ」



 姉の安寿と、弟の厨子王とは抱き合って泣いていました。

故郷を離れた時も、遠い旅をする時も、

ずっと母と一緒にし続けると思っていただけに、

全く予想もせずに、引き離されてしまって、

これから2人は、どうして良いかわかりません。

ただ悲しさばかりが胸に溢れて、

この別れが、自分たちの今後をどう変えるのか?

先行きが不安で、怖くてたまらないのです。

昼になり、宮崎は餅を出して食べはじめました。

そして安寿と厨子王にも、1つずつくれたのです。

しかし2人は、餅を貰っても食べようとせず、

目を見合わせて泣き続けました。

夜は、宮崎の三郎が被せた苫(とま)の下で、

泣きながら寝入ってしまいました。



 2人は、何日も何日も舟の上で過ごしました。

宮崎の三郎は、越中、能登(のと)、越前(えちぜん)、

若狭(わかさ)の津々浦々を歩きながら、

2人を買う者を探し続けました。



 しかし2人が幼く、更に体も弱そうに見えるので、

なかなか買い手が現れないのです。

たまに買い手が出て来ても、値段が釣り合いません。

宮崎の三郎は、徐々に機嫌が悪くなっていき、



「いつまでも泣いているのか!」



と怒鳴ると、2人を叩くようになっていったのです。



~本日は、ここまで~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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