『 安 寿 と 厨 子 王 』
前回までのお話し 「安寿と厨子王 1」 「安寿と厨子王 2」 「安寿と厨子王 3」
「安寿と厨子王 4」 「安寿と厨子王 5」 「安寿と厨子王 6」
山岡大夫は、振り返りながら4人の客を見ました。
「さあ、あなたたちはお2人ずつあっちの舟に移動しなさい。。
どれも西国への便船じゃ。
舟足というものは、重過ぎては走りが遅くなるからな」
2人の子供は宮崎の三郎の舟へ、
母親と姥竹は、佐渡の二郎の舟へと、
山岡大夫が、手をとって乗り移らせたのです。
そして4人全てが、2艘の舟に乗り移ると、
山岡大夫の手の中に、宮崎も佐渡も銭を握らせたのでした。
「あのもし、あなた様に主人が預けた金子の袋は?」
と、姥竹が、山岡大夫の袖を引っ張りました。
しかし山岡大夫は、棹を岩に押し付けると、
自分の舟を、すっと押し出し漕ぎ出したのです。
「わしはここで、さよならだ。
確かな手から、確かな手へ
お客を引き渡すまでが、わしの役目じゃ。
ご機嫌よう、行きなされ」
艪(ろ)の音が忙(せわ)しなく響き、
山岡大夫の舟は見る見る遠ざかって行ってしまいました。
母親は、佐渡の二郎に言いました。
「同じ道を漕いで行って、
同じ港に着くのでございましょうね」
それを聞いた佐渡と宮崎とは顔を見合わせて、
声を立てて大笑いしました。
そして佐渡は、
「そういや、乗る舟は弘誓(ぐぜい)(菩薩の広大な誓願の事)の舟、
着くは同じ彼岸(かのきし)と、
蓮華峰寺(れんげぶじ)の和尚が言うたっけなぁ~」
2人の船頭はそれきり黙って舟を出した。
そして佐渡の二郎は北へ、
宮崎の三郎は南へと漕ぎ出したのでした。
「あれ! あれ!」
「お母さま!」
「お母さま!」
と呼びかわす4人は、ただ遠ざかるばかりです。
母親は、舷(ふなばた)に手をかけながら、
伸び上がり、泣き叫びました。
「こうなっては仕方がありません!
お別れです!
安寿(あんじゅ)は、守本尊のお地蔵様を大切におし。
厨子王(ずしおう)はお父さまの下さった
護り刀を大切におし。
そしてどうか、二人が離れぬように!!」
安寿は姉娘、厨子王は弟の名です。
子供らはただ「お母さま、お母さま」と呼ぶばかりです。
舟と舟とは次第に遠ざかり、
後ろには餌を待つ、鳥の雛のように、
2人の子供の大きいく開いた口が見えていますが、
もうあまりに遠すぎて、声は届かなくなってしまいました。
姥竹は佐渡の二郎に
「もし船頭さん、もしもし」
と声をかけていたが、佐渡が答えもしないので、
ガッチリとした佐渡の足に縋り付きました。
「船頭さん。これはどうしたことでございます。
あのお嬢さま、若さまと別れて、
どうやって、生きていけましょうか。
それは奥さまも同じです。
子供を失って、これからは何をたよりに
暮らせばいいと言うのでしょう。
どうかお願いですから、
あちらの舟の行く方へと、この舟を漕いで下さいまし。
お願いでございますから・・・」
「うるさい!!」
と、佐渡の二郎は、姥竹を蹴り倒した。
~本日は、これにて、~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
おしまいっ。
