『 安 寿 と 厨 子 王 』



前回までのお話し  「安寿と厨子王 1」  「安寿と厨子王 2」
「安寿と厨子王 3」  「安寿と厨子王 4」





昨夜は、山岡大夫に連れられて、宿を借りに行ったのですが、

侍女の姥竹は、心に不安を感じながらも付いて行きました。

大夫は街道を、南へ入った松林の中のみすぼらしい家に、

4人を泊め、芋粥(いもがゆ)を出してくれたのです。

そして言葉少なに、どこからどこへ行く旅かと訊ねました。

草臥れた子供らを先へ寝せつけると、

母は宿の主人に、身の上を、

かすかな燈火(ともしび)のもとで語りました。



 自分は岩代(いわしろ)の人間で、

夫が筑紫(つくし)へ行ったきり戻らないので、

2人の子を連れて、夫を訪ねに参ります。

侍女の姥竹は、姉娘が生まれた時から

子守りをしてくれていた侍女で、これと言って身寄りが無いので、

供に旅をすることになったと、語りました。



 さてこの地まで来ましたが、筑紫の先まで行く事を考えると、

まだまだ、家を出たばかりと言うところです。

これからどれだけの、街道を進むのでしょう。

またはどれだけの船路をも進むのでしょう。

泊めてくれた家の主人は、

最初に会った時に、自分は船乗りだと言っていたのです。

ならば、遠い国の事も良く良く知っていらっしゃるでしょう。

どうかこの先の国の事などを、

聞かせてもらいたい、教えて欲しいと母親は頼みました。



 この家の主人の山岡大夫は、少しも躊躇わずに、

これから先は、船の路を行くが良いと勧めました。

陸を行けば、直に隣の越中の国に入る国境。

そこには 「親不知子不知(おやしらずこしらず)」 と言われる、

とても険しい場所があるのです。

垂直に削ったような、ごつごつとした岩の下には、

荒波が、打ち付けて来るのです。

旅人は横穴に入って、波の引くのを待ち、

狭い岩場の下の道を走り抜けねばならぬのです。

その時は、どんなに子を思っても、

先に走った親は子を、振り返って見る事は出来ないのです。

もし子が先に出た時も同じです。

後から来る親を、振り返って見ることは

危険すぎて出来ないのです。

そんな海辺の難所が、いくつもあるのです。

それから山を越える時も、難所はいくつもあります。

踏んだ石が一つ揺れて、崩れてしまうと、

深い谷底に、真っ逆さまに落ちるしかない、

危ない岨道(そばみち)もあるのです。

西国へ行くまでに、陸の上では

どれだけの数の危険な場所があるか、

知れないのと、山岡丈夫は言いました。

しかし、それとは違って、船路は安全なものだと言いました。

信用が出来る、確かな船頭にさえ頼めば、

自分は舟の上で、ただ座っているだけで、

どんなに遠くまででも、行けれるのです。

自分は西国まで舟を進めることは出来ないけれども、

諸国の船頭を知っているから、

明日は、自分の舟で途中まで行って、

そこからは、西国へ進む舟に乗り換えさせてあげましょう。

だから明日の朝、早速、わしの舟に乗って出かけようと、

山岡大夫は、語りました。



 夜が明けかかると、

大夫は4人を急がせて、家を出ました。

その時、母親は小さい袋から金を出して、

宿賃を払おうとしました。

しかし大夫は、宿賃はいらないと断ったのです。

が、この先、危険もあるかも知れないから、

金の袋など、大事な物は預かりましょうと言いました。

なんでも大切な品は、宿に着けば宿の主人(あるじ)に、

舟に乗れば舟の主(ぬし)に預けるものだと言うのです。



~本日は、これにて~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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