『 安 寿 と 厨 子 王 』



前回までのお話し  「安寿と厨子王 1」  「安寿と厨子王 2」  「安寿と厨子王 3」




 するとこの男は、



「わしは、山岡大夫という船乗りですじゃ。

 この頃、この土地を人買いが立ち廻るというので、

 国守が旅人に宿を貸すことを差し止めたんじゃ。

 人買いを捕まえることは、国守の懐には合わぬらしい。

 それ故に気の毒なのは、旅人なんじゃ。

 そこでわしは旅人を、こっそりと救うてやろうと思い立った。

 幸いわしの家は、街道から離れているので、

 こっそり人を泊めても、見つかりはせんのじゃ。

 だから誰にも遠慮もいらんのじゃ。

 わしは旅人達が、野宿をしそうな

 森の中や、橋の下を時々見て回って、

 これまで大勢の旅人を連れて帰った。

 それに見れば、お子さんたちは菓子を食べていなさるが、

 そんな物では、腹は満たされないし、虫歯にもなる。

 わしの家では、大したもてなしは出来ないが、

 芋粥(いもがゆ)位は、あげられる。

 どうぞ遠慮せずに、来て下されや」



 男は無理やり連れて行こうというのでもなく、

まるで独り言のようにそうつぶやいたのです。



 母親は、黙って聞いていましたが、

国守の掟に叛いてまでも、旅人を救おうという

ありがたい志に、感銘をうけたのです。

そこでこう言いました。



「何と有り難い、高貴なお心でしょう。

 旅人に貸してはならないというう掟なのに、

 私たちが宿を借りて、貴方様に迷惑がかからないか、

 それがとても気がかりでございます。

 しかし、わたくしはともかくも、

 子供らに暖かい物を食べさせて、

 屋根の下で、休ませることが出来るのでしたら、

 このご恩は、永遠に忘れることは出来ません」



 山岡大夫は頷きました。



「さてさて、道理が解るご婦人じゃな。

 そんなら今すぐ、我が家に案内しましょう」



こう言って立ちあがろうとしたのですが、

母親は、申し訳なさげに言いました。



「どうか、もう少しだけお待ち下さいませんか。

 わたくしども3人がお世話になるのでさえ

 とても心が苦しいのですが、

 実はもう1人、連れの者がいるのです」



 山岡大夫は、驚きながら聞き返しました。



「お連れの方とな。それは男か女か?」



「この子たちの乳母でございます。

 今、湯をもらうと言って、街道を引き返して行きました。

 もう間もなか帰って来ると思うのです」



「女かい。そんなら、もう少し待ってあげますよ」



 その時、山岡大夫の落ち着いた顔に、

不敵な笑みが浮かんだのですが、

親子3人は、それを見ていませんでした。





 翌朝、母と姉弟と乳母の4人は、

昨夜の男と共に、直江の浦へやってきました。

太陽はまだ山の後に隠れていて、

暗い海の上には、薄く靄がかかっていました。



 4人の客を小舟に乗せると、

船頭は舟を留めてある纜(ともづな)をときました。

船頭とは、昨夜、4人を自宅に泊めてくれた山岡大夫です。



 昨夜の、応化橋(おうげのはし)の下で

山岡大夫に出逢った母親と子供二人とは、

侍女の姥竹(うばたけ)が縁(へり)が欠けた器に

湯を貰って戻るのを待って、

山岡大夫に連れられて、宿を借りに行ったのです。

侍女の姥竹は、心に不安を感じながらも付いて行きました。



~本日は、ここまで。~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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