『 安 寿 と 厨 子 王 』
前回までのお話し 「安寿と厨子王 1」 「安寿と厨子王 2」
橋のたもとには、川に洗濯に行くための道がありました。
その道から、4人は河原へと降りていきました。
なるほど、女が言ったように、
何本もの大きな材木が、護岸の石垣に立てかけてあります。
4人は石垣に沿って、材木の下に潜り込みました。
男の子は面白ろがって、一番先に行きます。
奥深くと入っていくと、そこはまるで洞穴の様でした。
下には大きい材木が横になっているので、
床が敷かれているようです。
男の子が先に入ると、横になっている材木の上から、
「姉さん、早くおいでなさいよ」
と呼びました。
姉娘は、恐る恐る、弟の方へと進んでいきます。
「まあ、お二人とも、お待ちくださいな」
と侍女は言うと、背負っていた大きな包みを降ろしました。
その包から衣類などを出すと、
2人の子供を自分の傍へ来させて、
材木の隅に、包んでいた風呂敷を敷きました。
そしてその上へ、親子を座らせました。
母親が座ると、2人の子供は左右から母へ縋り付きます。
岩代(いわしろ)の信夫郡(しのぶごおり)の家を出て、
親子はここへ来るまで、この河原の材木の蔭より
もっと酷い雨ざらしの場所でも、寝たことがあるのです。
徐々に不自由な生活にも慣れて、今ではそれが、
旅立った当初よりも、苦にはならなくなっていました。
侍女は包みから出した物は、衣類ばかりではありません。
万が一の時の為の食べ物も出しました。
侍女はそれを親子の前に置きながら言いました。
「ここでは焚火(たきび)をする事は出来ません。
万が一にも、悪人に見つけられてはならないからです。
私が、あの塩浜の持ち主とやらの家まで行って、
お湯をもらってまいりましょう。
そしてもう一度、藁や薦も頼んできます。」
そう言うと侍女は、急いでその場から出て行きました。
子供は楽しげに興米(おこしごめ)や、
干した果物などを食べ始めました。
どの位、経ったでしょう。
この材木の蔭へ、人の入って来る足音がしたのです。
「姥竹(うばたけ)かい?」
と母親は、声をかけました。
しかし心の中では、
雑木林への往復にしては早過ぎると、疑いました。
姥竹というのは侍女の名です。
入って来たのは、筋骨が逞しい40才位の男でした。
無駄な贅肉の全く無い、痩せた顔には笑みを浮かべ、
手には数珠(じゅず)を持っていました。
暗いこの場所を、まるで自分の家でも歩くように、
慣れた足の運びをして、親子の方へと進みました。
そして親子が座っている材木の端に腰をかけたのです。
親子は、ただただ驚いて見ているしか出来ません。
しかし悪さをしそうにも見えないので、
恐怖は感じてはいませんでした。
~本日は、これにて~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
おしまいっ。
