『 ナ イ チ ン ゲ ー ル 』
前回までのお話し 「ナイチンゲール 1」 「ナイチンゲール 2」
「ナイチンゲール 3」 「ナイチンゲール 4」 「ナイチンゲール 5」
「ナイチンゲール 6」 「ナイチンゲール 7」
「ナイチンゲール 8」 「ナイチンゲール 9」
ナイチンゲールが歌うにつれて、
怪しい者の影は、だんだんと薄まって行きました。
そればかりではありません。
皇帝の弱り切った体の中を、
血が勢い良く、巡り出したのです。
死神さえも、美しい歌声に、じっと耳を傾けています。
そしてしまいには、
『もっと続けろ、ナイチンゲール。
もっと聞かせろ!』
と、死神は言ったのです。
『ええ、ええ、歌いましょうとも。
でもその代わり、私にその金の剣をくださいな。
その美しい旗をもくださいな。
それから皇帝の金の冠もくださいな。』
そう言いながら、ナイチンゲールは
高らかに歌を歌いました。
それは真っ白なバラが咲き、
ニワトコの花が良い香りを放ち、青々とした草花が、
後に生き残った人々の涙で濡れる、静かな墓地の歌でした。
それを聞くと死神は、
自分の庭が恋しくなって、冷たい霧へと姿を変えると、
ふわふわと窓から出て行ってしまいました。
『天使のような可愛い小鳥よ。
わしはお前のことを良く知っているぞ。
お前をこの国から追放したのは、
このわしじゃ。
それなのに、お前は歌を歌って、
あの不気味な奴らを追い出してくれた。
死神を、追い払ってくれた。
ナイチンゲール、
ありがとう。
ありがとう。
わしはお前に、どんなお礼をしたらよいのだろうか?』
するとナイチンゲールは、
『陛下、もうご褒美はいただきました。
私が、初めて陛下の前で歌った時、
陛下のお目には、涙があふれました。
あのことを、わたくしは決して忘れはしません。
それこそが、歌を歌う者の心を喜ばせる、
何よりの宝でございます。
――どうか、今はただただお休みください。
そして元気に、丈夫におなりくださいませ。
ゆっくりと眠れるよう、
私が歌を歌ってさしあげましょう。』
そしてナイチンゲールは、静かな歌を歌い始めました。
――皇帝は、すやすやと眠りました。
それは本当に安らかな気持ちの良い眠りでした。
やがて朝になり、お日様の光が窓から差し込んできました。
そして寝床に光が当たると、
皇帝は、すっかり元気になって目を覚ましました。
周囲を見渡すと、
まだお付きの者は誰一人、戻って来ておりません。
皆が皆、皇帝はもうお亡くなりになったと、
思いこんだためです。
でも、ナイチンゲールだけは、
ずっとそばにいて、歌を歌い続けていました。
『お前はこれからは、いつもわしの傍に居ておくれ。』
と、皇帝は言いました。
『お前は歌いたい時にだけ、歌ってくれればよい。
こんな作り物の鳥など、粉々に砕いてくれよう!』
『陛下!
どうぞ、そんなことはなさらないでください。
その鳥も、出来るだけの事はして来たのでございますよ。
今までと同じように、どうぞ傍にお置きくださいませ。
私は、御殿に巣を作って、暮らすことはできません。
でも、私は好きな時に、気が向いた時に
ここに来させていただきとうございます。
そうすれば、私は、夕方、
あの窓のそばの小枝にとまり、
陛下がお喜びになりますよう、
そしてまた、お考えが深くなりますよう、
歌を歌ってお聞かせいたしましょう。
また陛下の周りに隠れている、
悪い事や、良い事についても、
歌ってお知らせいたしましょう。
歌を歌う小鳥は、
貧しい猟師の頭上にも、
農家の屋根の上をも飛びまわります。
陛下や、この御殿から離れた、
遠い場所に住んでいる人々の所へも、
飛んでいくのでございます。
私は、陛下の冠よりも、陛下の御心の方が好きです。
と、言いましても、
陛下の冠の周囲には、神々しい香りが、
漂ってはおりますが。
私は又、ここに参りまして、陛下にお歌をお聞かせいたします。
――ですが、一つだけ、
私に約束をしてくださいませ。』
『一体何だ?お前の為になら、何でもいたそうぞ。』
皇帝はそう言うと、立ちあがり、
陛下ご自身だけで、着物を着替え始めました。
『では、一つだけお願いをいたします。
陛下に何もかも申し上げる小鳥がおりますことを、
どなたにも仰らないで、秘密にしてくださいませ。
そうしますれば、これからは
一層何もかも、うまくまいることになるでしょう。』
こう告げると、ナイチンゲールは遠くへ飛んでいきました。
ナイチンゲールが去ると同時に、
召使たちが、お亡くなりになった皇帝を見に、
部屋へと入ってきました。
部屋へ入った途端、皆は驚き、
息をのみ、そこに立ち止ってしまいました。
するとそれを見た皇帝は、笑顔で言いました。
『皆、おはよう。』
『ナイチンゲール』 おしまいっ。
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
おわりっ。
