『 果 心 居 士 の は な し 』



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すると、列座のものがみんな驚いたことには、

その絵はごく細かい点までも、

すっかり元どおりになっていた。

しかし、色がいくぶん褪せているようで、

それに亡者や鬼の姿も、前のように、

ほんとうにいきいきとは見えなかった。

この相違に気がついて、信長公は、

果心居士にその理由を説明するように求めた。

すると果心居士は、こう答えた。



『はじめてごらんになりましたときの絵の値段は、

 まったくどんな値もつけられないほど、

 貴いものでございました。

 ちょうどその金高――すなわち、

 黄金百両の値打ちを現しているのでございます。

 ……どうしても、こうならないわけには、

 ゆかないのでございます。』



この返答を聞くと、列座の人たちはみんな、

これ以上すこしでもこの老人に反対するのは、

有害無益であると感じた。

果心居士はただちに放免された。

そして荒川もまた釈放された。

それまで受けた罰で、

その罪を償ってなお余りがあったからである。



 さて、荒川に武一(ぶいち)という弟がいた。

やはり、信長に仕えている家来だった。

武一は、荒川が打たれて牢に入れられたので、

たいへん怒って、果心居士を殺そうと決意した。

果心居士は、再び自由な身になると、

すぐその足で酒屋へ行って、酒を命じた。

武一は、そのあとを追って、店に飛び込み、

果心居士を打倒して、首を切り取った。

それから、

老人が支払いをうけて所持していた百両の金を奪うと、

頸と鐘とを一緒に風呂敷に包みこみ、

荒川に見せようと、急いで家に帰った。

しかし、その包をといて見ると、

首のかわりに、ただ空っぽの酒瓢箪(さかびょうたん)があり、

黄金のかわりに、一塊の汚物があるばかりだった。

……それに、まもなく、果心居士の首のない死体が、

いつどうしたのか、わからないけれど、

酒屋から消えうせたという知らせがあったので、

荒川兄弟は、ますますうろたえて、

わけがわからなくなった。



 それから一か月ばかりのちまで、

果心居士については、何の消息もなかったが、

そのころのある晩のこと、

信長公の御殿の入口で、

遠雷のような高鼾をかきながら眠っている酔いどれがあった。

一人の家来が、その酔いどれは

果心居士であることを、つきとめた。

この無礼な咎のために、

老人はすぐ召しとられて、牢にぶちこまれた。

それでも、老人は目をさまさず、

そのまま、牢のなかで、十日十晩も間断なく眠り続けて、

そのあいだ、たえず、遠くまで聞こえるような高鼾をかいた。



~今日は、このあたりで・・・~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

つづくですっ。
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