『 安 芸 之 助 の 夢 』



前回までのお話し  「安芸之助の夢 1」
「安芸之助の夢 2」  「安芸之助の夢 3」
「安芸之助の夢 4」  「安芸之助の夢 5」





 一人の郷士が言った。



『いや、まったく、ふしぎな夢を見たもんだね。

 ところが、わしどもも、

 あんたがうたた寝をしているうちに、

 ふしぎなものを見たよ。

 小さな黄色い蝶が一羽、あんたの顔のうえを、

 ほんのしばらくヒラヒラと舞っていたぞ。

 わしどもは、それをじっと見ておった。

 すると、蝶はあんたの地面の、

 木の直ぐ近くに止まったのだ。

 そして、蝶が止まるのが早いか、

 たいそう大きな蟻が一匹、穴から出てきて、

 蝶を捕まえ、穴の中へ引きこんでいった。

 ところが、ちょうど、あんたが目をさます前に、

 その同じ蝶が、またもや穴から出てきて、

 さっきのように、あんたの顔のうえを、

 ヒラヒラと舞っていたが、

 それからふいに消えてしまった。

 どこへ行ったのやら、まるでわからん。』



『たぶん、そりゃ安芸之助さんの魂だろうよ。』



と、もう一人の郷士が言った。



『たしかにわしは、あの蝶が、

 安芸之助さんの口の中へ飛び込むところを、

 見たような気がした。

 ……だが、その蝶が、安芸之助さんの魂だとしたところで、

 そのことから、夢のわけはわからんね。』



『アリなら、そのわけがわかるかもしれんぞ。』



と、最初の郷士が言った。



『蟻は奇妙な生き物だからね。

 ――ことによると、妖魔(ようま)かもしれん。

 ……とにかく、あの杉の木の下には、

 大きな蟻の巣があるよ。』



『ひとつ、見てやろうよ。』



朋輩の言葉にひどく心を動かされて、

安芸之助はこう叫んだ。

そして、鍬(くわ)を取りに行った。



 杉の木の周りや下の土は、

途方もない蟻の大群に、

まったくおどろくばかり掘りぬかれていることがわかった。

アリは、さらにその掘りぬいた穴の中に家を建てていて、

藁や粘土や茎で作られたその小さな建物は、

妙に小さな町に似ていた。

そして、他よりもずっと大きな建物の真ん中に、

黄色がかった羽に、長くて黒い頭をした一匹の

たいへん大きな蟻がいて、

そのからだのまわりに、ふしぎなくらい、

沢山の小蟻が群がっていた。



『や、夢で見た王がいるぞ。』



と、安芸之助は叫んだ。



『それに常世の御殿もある。

 ……まったく、おどろくべきことだ。

 ……らい州は、どこか、その西南のほうにあるはずだ。

 ――あの大きな根の左側だ。

 ……そうだ、ここが、そうなんだ。

 ……なんとまあ、不思議なことだろう。

 では、はん菱江(はんりょうこう)の丘も、

 王女の墓も、きっと見つかるぞ。』



 安芸之助は、こわれた巣の中を、

アチコチ探し回った。

そして、とうとう小さな塚を見つけた。

その頂には、石塔に似た形の、

水で磨滅した小石が置いてあった。

見ると、その下には、

――土に深く埋もれて、

――一匹の雌蟻の死骸があった。



~「安芸之助の夢」 おしまい。~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっっ。
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