『 約  束 』




『この秋早々には、帰って来るよ。』

今から数百年も以前のことであるが、

赤穴宗右衛門(あかなそうえもん)が、

義弟の丈部左門(はせべさもん)に、

別れをつげるときに、こう言った。

時は春で、所は播磨(はりま)の国の加古村だった。

赤穴は出雲(いずも)の侍で、

郷里を訪ねようと思っていたのである。



 丈部はこう言った。



『兄上のお国の出雲

 ――八雲立つ出雲の国は、たいそう遠うございます。

 それで、いつここへお帰りになるか、

 しかとした日取りを御約束なさるのは、

 むつかしゅうございましょう。

 しかし、もしその日がはっきり伺えますれば、

 たいへん仕合せにぞんじます。

 そうしますれば、お迎えの宴の用意もでき、

 また門口で、お帰りを待ち受けることもできましょうから。』



『さあ、そのことなら』



と、赤穴は答えた。



『わたしは、旅にはよく慣れているので、

 どこそこまで、どのくらいかかるかも、

 たいてい前もっていえるので、

 しかとした日にここへ帰ると約束しても、

 間違えはしない。

 重陽(ちょうよう)のめでたい日にしたらどうだろう?』



『それは九月の九日ですね。』



と丈部は言った。



『そのじぶんには、菊の花も咲いていましょうから、

 ごいっしょに菊見にも行けるわけですね。

 さぞかし、楽しいことでございましょう。

 ……では、九月の九日にお帰りになることを、

 約束してくださいますね。』



『そう、九月の九日にね。』



と、赤穴は繰り返して言い、

ほほえみながら別れを告げた。

それから、播磨の国の加古村をあとに、

ゆうゆうと旅立った。

――丈部左門と母親とは、

目に涙をうかべながら、彼を見送った。



~今日は、このあたりで・・・~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

つづくですっ。
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