『 食 人 鬼 』



前回までのお話し  「食人鬼 1」  「食人鬼 2」  「食人鬼 3」




 夢窓は、このことについては、

もう何も言わなかった。

親切にもてなしてくれた人たちが、

自分がなにか化け物にでも騙されて

いるように思っているらしい様子が、

ありありと見えたからである。



 しかし、みんなに別れを告げ、行く先の道のことで、

必要な事柄をすっかり聞くと、

夢窓はもう一度あの山の草庵をたずねて、

自分がほんとうに騙されたかどうかを、

確かめようと心にきめた。



 庵室はなんの苦もなく見つかった。

すると今度は、その年老いた主は、

中にはいるように勧めた。

夢窓が言われるままに中にはいると、

隠者(いんじゃ)は彼の前にうやうやしく頭をさげて、



『面目ない

 ――ほんとうに面目ない

 ――まったく、面目しだいもないことです。』



と、大きな声で言った。



『宿をお断りなされたのを、

 なにも恥じ入られることはありません。』



と夢窓は言った。



『あなたは、むこうの村を教えて下されたが、

 その村で、たいそう親切にもてなされました。

 むしろ御厚情をありがたく思っておりますよ。』



『わしは、どんなかたにも、宿はお貸しできない身です。』



と隠者は答えた。



『わしが面目なく思うのは、

 宿をお断りしたことではありません。

 ただ、あなたに、わしの正体を見られたのを、

 面目なく思うているのです。

 ――と申すのは、ゆうべ、あなたの面前で、

 遺骸(いがい)や供え物を貪り食うたのは、

 このわしなのです。

 ……御出家、わしは、

 人肉をくらう人肉鬼(じきにんき)なのです。

 わしを憐れんでください。

 そして、こんな境涯におちて、

 人知れず犯した罪を、懺悔させてください。』



・・・・・



『もう、だいぶん前のことですが、

 わしはこの人気(ひとけ)のない土地の僧でした。

 何里四方にもわたって、ほかに僧と名のつくものは

 ひとりもいないので、そのころには、

 亡くなった山家(やまが)の人たちの遺骸は、

 ――ときには、たいへん遠くから、

 ――葬い(とむらい)のお勤めをしてもらいに、

 ここまで運ばれる習わしでした。

 ところが、わしはただお役目だけに、

 勤めをくりかえし、儀式を行うだけで、

 このとうとい職から得られる衣食のことばかり、

 考えていたのです。

 そして、この我利我利(がりがり)の邪念のために、

 死ぬとすぐに、食人鬼の身に生まれかわったのです。

 それからというものは、

 このかいわいで死ぬ人たちの遺骸を食って、

 生きてゆかねばならなくなったのです

 どれもこれもみんな、ゆうべ御覧なされたようにして、

 貪り食わねばならなくなったのです。

 ……ところで、御出家、わしのために、

 施餓鬼(せがき)をなすってください。

 お願いです。

 御出家の祈祷の力で、この恐ろしい境涯から、

 すみやかに逃れられるよう、お救いください。』……



 こう嘆願するが早いか、隠者の姿は消えうせ、

それと同時に、庵室(あんじつ)もまた消えてしまった。

そして、夢窓国師は、僧の墓らしく見える、

五輪石とよばれる形の、ふるい苔むした墓のかたわらで、

背のたかい草のなかに、

ただひとり、ひざまずいているのであった。



~『食人鬼』 おしまい。~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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