『 食 人 鬼 』



前回までのお話し  「食人鬼 1」  「食人鬼 2」




 夜の静けさがこのうえなく深まったとき、

もうろうとした大きな姿のものが、

音もなくはいってきた。

と同時に、夢窓は身動きができず、

ものを言う力もなくなっていた。



 見ているうちに、その姿のものは、

両手を使ってやるように、

遺骸をもちあげて、猫がネズミを食べるよりもすばやく、

それを貪(むさぼ)り食った。

――頭からはじめて、何もかも、

髪の毛も、骨も経帷子(きょうかたびら)までも食べた。

そして、この怪物は、

こうして遺骸を食べてしまうと、

こんどは供え物のほうへむいて、

それもみんな平らげてしまった。

それから、入って来たときと同じように、

いずことなく姿を消した。



 あくる朝、村の人たちが帰ってくると、

夢窓は、村長(むらおさ)の屋敷の入口で、

みんなを待っていた。

一同の者はかわるがわる挨拶をした。



 それから、中にはいって部屋じゅうを見まわしたとき、

遺骸や供え物がなくなっているのを見ても、

だれひとり、おどろいた様子もなかった。

家のあるじは、夢窓にむかってこう言った。



『御出家さま、さだめしゆうべは、

 いやなものをご覧なされたことでございましょう。

 わたしどもはみんな、お案じ申しておりました。

 でも御無事で、なんのお障りもなく、

 たいへん嬉しくぞんじます。

 できますことなら、わたしどもも、

 ごいっしょにいたかったのでございます。

 しかし、ゆうべもお話いたしましたとおり、

 この村の掟で、死人のあったのちには、

 みな家を去って、遺骸だけ残しておかねばなりません。

 これまで、この掟を破りましたさいには、

 いつもそのあとで、なにかしら、

 ひどい災厄がおこるのでございます。

 掟のとおりにいたしますと、

 かならず留守中に、遺骸も供え物も、

 なくなるのでございます。

 たぶん、あなたさまは、

 そのわけを御覧になったでござましょう。』



 そこで夢窓は、もうろうとした恐ろしい姿のものが、

死人の部屋に入ってきて、

遺骸と供え物とを貪り食ったことを話した。

が、この話しを聞いて、だれひとり、

おどろいた様子は見えなかった。

そして、家のあるじはこう言った。



『御出家さま、お話くださいましたことは、この件について、

 ずっと昔から言い伝えられている話と、

 ぴったり合っております。』



 そこで、夢窓は尋ねた。



『あの山のうえの坊さんは、ときには、

 この村の死人の葬い(とむらい)は、してくれるかな。』



『どんな坊さんでございましょうか。』



と、若いあるじは尋ねた。



『ゆうべ、わたしにこの村を教えてくれた坊さんですよ。』



と、夢窓は答えた。



『わたしは、むこうの山のうえにある、

 その坊さんの庵室(あんじつ)をたずねたのです。

 すると坊さんは、宿はことわりましたが、

 こちらへ来る道を教えてくれましたよ。』



 聞いていた人たちは、びっくりしたように、

たがいに顔を見合せた。

そして、ちょっと黙っていたが、

やがて家のあるじが言った。



『御出家さま、あの山のうえには、

 坊さんもいなければ、庵室もございません。

 もう何代にもわたって、

 このかいわいに住みついた坊さんなどは、

 一人もございません。』



 夢窓は、このことについては、

もう何も言わなかった。



~今日は、このへんで。~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

つづくですっ。
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