『 興 義 和 尚 の は な し 』
前回までのお話し 「興義和尚のはなし 1」
「興義和尚のはなし 2」 「興義和尚のはなし 3」 「興義和尚のはなし 4」
『それから、わしは泳いで行って、
諸所方々の景色のよいところを、見物したようです。
ときおり、わしは、
青々とした水の上におどる日光を眺めたり、
風のあたらない静かな水面にうつった山や木の美しい影を、
賞したりするだけで、満足しました。
……とりわけ、沖津島(おきつしま)であったか、
竹生島(ちくぶしま)であったか――ある島の岸が、
赤い壁のように水にうつっていたのを、覚えています。
……あるときは通る人たちの顔が見えたり、
声が聞こえたりするくらい、
岸に近づいたこともありますし、
またあるときは、水面に眠っていて、
近づいてくる櫂(かい)の音に
おどろかされたこともあります。
夜になると、月光の眺めがきれいでした。
しかし、わしは堅田(かただ)の漁船の漁火(いさりび)が
近づいてくるのには、一度ならず驚かされました。
天気の悪い日には、よく下のほうへ
――ずっと下のほうへ――
千尺も下のほうへ沈んでいって、
湖の底で遊んだものでした。
しかし、こうして、二、三日楽しく遊びまわったすえ、
たいそうお腹がすいてきました。
それで、なにか食べ物を見つけようと思って、
この近くへ引き返してきました。
ちょうどそのとき、猟師の文四が、
たまたま釣をしていたのです。
で、わしは、水のなかに垂らしてある釣針に近づきました。
それには魚で作ったよい匂のする餌がつけてありました。
と同時に、わしは、海若のいましめの言葉を思いだして、
ひとりごとを言いながら、むこうへ泳いで行きました。
「どうあっても、魚のはいっている物を食べてはならん。
――わしは、仏さまの弟子なんだから。」
それでも、しばらくすると、
お腹のすきかたが大変ひどくなってきて、
どうにも誘惑に打ち勝てなくなりました。
それで、わしは
「たとい文四がわしをつかまえても、
傷めつけることはあるまい。
――古い知り合いなんだから。」
と考えながら、ふたたび釣針のところへ、
泳いでもどりました。
わしは、釣針から餌をはずせなかったけれど、
エサの匂がたまらなくよいので、我慢できませんでした。
それで、わしは、何もかもいっしょに、
がぶりと一呑みにしました。
そうするが早いか、文四は釣り糸をたぐって、
わしをつかまえました。
わしは文四にむかって、大声でこう言いました。
「何をするんだ?痛いぞ!」
しかし、わしの言うことは、聞こえなかったらしく、
文四は、すばやくわしの顎に糸を通しました。』
~今日は、ここまで。 続きはまた明日。~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
つづくですっ。
