『 ろ く ろ 首 』



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 さて、その首がどうなったか、

という話が、残っているだけである。



 諏訪を去って一両日後、

回竜は追剥(おいはぎ)に出あった。

その賊は、さびしいところに回竜を引きとめて、

着物をぬげと言いつけた。

回竜はすぐ衣をぬいで、それを追剥にさしだした。

賊は、そのときはじめて、

袖にぶらさがっているものに気がついた。

さすがにふてぶてしい追剥も、

これにはびっくりして、衣をとり落として飛びのいた。

そして、こう叫んだ。

『おいこら、てめえはまあ、なんという坊主だ。

 いやはや、おれより一枚うわての悪党だ。

 なるほど、おれも人殺しをやったが、

 人間の生首を袖にぶらさげて歩きまわったことなんか、

 まだ一度もねえ。

 ……なあ、坊さん、

 おれたちは、どうも同じ商売仲間らしいが、

 ほんとのところ、おまえさんには感心したね。

 ……ところで、その首は、こちとらの役にたちそうだ。

 そいつで、人をおどかせそうだ。

 ひとつ、売ってはくれまいか。

 おめえの衣と取っかえに、おれの着物をやろう。

 それに、首代として、五両だそうよ。』



 回竜は答えた。



『おまえがぜひというなら、首も衣もくれてやろう。

 だが、ことわっておくが、

 これは人間の首じゃないんだ。

 化け物の首なんだぞ。

 そこで、わしからこの首を買うて、

 そのために面倒なことがおこっても、

 わしにいっぱい食わされたなどと、

 思わんでもらいたい。』



『なんて、おもしれえ坊さんだ。』

と、追剥は大声で言った。

『人を殺しておいて、それを茶化していやがる。

 ……だが、おれは全く本気だぜ。

 さあ、これが着物だ。

 それから、これが金だ。

 ――その首をもらおう。

 ……冗談なんか言って何になる?』



『それを持って行くがいい。』

と、回竜は言った。

『わしは冗談なんか言っちゃおらん。

 ただ冗談と言えば、

 ――いくらかでも、ふざけ気味があるとすりゃね、

 ――大金をだして化け物の首を買うなんて、

 おまえはまったく馬鹿者だ、というくらいなもんだよ。』

こう言って、回竜はたからかに笑いながら、立ち去った。



 このようにして、追剥は首と衣を手に入れると、

しばらくのあいだ、街道で化け物坊主になりすましていた。

ところが、諏訪の近くまでやってきて、

その首のほんとうの話を耳にすると、

ろくろ首の亡霊にたたられはしないかと、

おそろしくなってきた。

そこで賊は、首をもとのところへ返して、

胴体といっしょに葬ってやろうと決心した。

こうして賊は、甲斐の山中のさびしい小屋に、

ようやくのことたどり着いたが、

そこにはだれも住んでいず、

胴体も見つからなかった。

そこで賊は、首だけを小屋のうしろの木立のなかに埋め、

墓には墓石を建て、

ろくろ首の霊のために、施餓鬼(せがき)をしてもらった。

そして、その墓石――

――ろくろ首の碑として知られている――は、

今日もなおみられる。



(日本の物語作者は、ともかく、そう述べている。)



「ろくろ首」 おしまい。




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

つづくですっ。
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