『 ろ く ろ 首 』
前回迄のお話し 「ろくろ首 1」 「ろくろ首 2」 「ろくろ首 3」 「ろくろ首 4」 「ろくろ首 5」
「ろくろ首 6」 「ろくろ首 7」 「ろくろ首 8」 「ろくろ首 9」 「ろくろ首 10」
よく見ると、頸の切り口は、
それどころか、あたかも木の葉が、
枝からひとりでに落ちた跡のように、
すべすべしていた。
……そこで、老奉行はこう言った。
『出家の申し立は、まったく偽りのないことがわかった。
これはろくろ首である。
「南方異物志」という書物に、
ほんもののろくろ首の首筋には、
つねに赤いしるしが見えると書いてあるが、
この首には、ちゃんとそのしるしがある。
それが、書きつけられたものでないことは、
御覧のとおりである。
そのうえに、このような化け物が、ずっと以前から、
甲斐の国の山中に住んでいたこともよく知られている。
……ところで、御出家。』
と、老奉行は回竜のほうをむきながら、大声で言った。
『あなたは、ほんとうに剛気な御出家でいられる。
たしかに、出家にはめずらしい勇気を見せられた。
出家というよりは、
むしろ武人らしい風格をそなえていられる。
おおかた、もとは武門のかただったのでしょう。』
『お察しのとおりです。』
と、回竜は答えた。
『出家するまえには、ひさしく弓矢をとる身でございました。
そのじぶんには、人間も魔物も、
けっして恐れはいたしませんでした。
わたしは、当時、
九州の磯貝平太左衛門武連と名乗っておりました。
みなさんのうちには、
この名をご記憶のかたもございましょう。』
回竜がこう言って名をあかすと、
白州(しらす)のそこにも、ここにも、
賛嘆のつぶやきがざわめいた。
というのは、回竜の名を覚えているものが、
おおぜい居合わせたからである。
こうして、回竜は、たちまちのうちに、
奉行とはうってかわった親しい友――
――兄弟のようなやさしい心で、
自分たちの感嘆の情を示そうとしている友人たちに、
取りまかれたのである。
彼らは、みんなで付添ってうやうやしく、
回竜を大名のお屋敷へ案内していった。
すると、大名も、よろこんで回竜を迎えたうえ、
大いにもてなし、りっぱな贈物をしてから、退出をゆるした。
そこで回竜は、諏訪を去るときには、
このさだめない世で、出家の身として、
このうえないほど、たいへん仕合せな気持になった。
首はといえば、回竜は、
それを土産にするつもりだと、おどけて言い、
そのままたずさえて行った。
~本日は、ここまで。~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
つづくですっ。
