『 ろ く ろ 首 』



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 回竜は、このように、りっぱな覚悟のほどを打ち明けられて、

心うれしく、あるじにむかってこう言った。



『御主人、若いじぶんに、とかく身をもちくずした人たちが、

 後年たいへんまじめになって、

 ちゃんとした暮しをした例は、わしもよく見てきました。

 お経のなかにも、悪行にひどく強い者が、

 しっかりした覚悟しだいで、

 善行にもいちばん強い人になれると、書いております。

 あんたが、りっぱな心を持っておられることは、

 もう疑いのないところで、わしは、

 あんたにもっとよい運がむいてくるように念じます。

 今晩、ひとつあんたのためにお経をあげて、

 これまでの罪業に打ち勝つ力を得られるように、

 祈ってあげましょう。』



 このように請けあってから、

回竜はあるじに就寝のあいさつをした。

すると、あるじは、ごく小さな脇の間へ案内した。

そこには床がのべてあった。

やがて、家の者もみんな寝ついたが、回竜だけは起きていて、

行燈のあかりで、お経を読み始めた。

そして、おそくまで読経と祈祷をつづけた。

それから、床につくまえに、

もう一度景色を眺めようと思って、

小さな寝間の窓を開けた。

美しい夜だった。

空には雲ひとつなく、風も絶えて、

明るく冴えた月の光が、

くっきりと木の葉の影をおとし、

庭の露のうえに、きらきら光っていた。

蟋蟀(こおろぎ)や鈴虫の鳴き声はにぎやかに楽の音をかなで、

近くの小滝の音は、夜が更けるにつれて高まってきた。

その水の音に耳を傾けているうちに、

回竜は渇きを覚えて来た。

そして、家の裏手の竹の筧(かけひ)を思い出し、

そこへ行けば、眠っている家人を煩わさずに、

水が飲めると思いついた。

そこで回竜は、

自分の部屋と広間との隔ての襖をそっとあけた。

すると、行燈のあかりで目にうつったのは、

横になっている五つの胴体で、――

――どれにも首がない!!



 一瞬のあいだ、回竜は人殺しだと考えて、

茫然と立ちすくんだ。



~本日は、ここまで。~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

つづくですっ。
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