『 青 柳 の は な し 』
前回迄のお話し
「青柳のはなし 1」 「青柳のはなし 2」 「青柳のはなし 3」 「青柳のはなし 4」
しかし、老人はいくども平身低頭したのち、
しずかにその贈物を押しかえして言った。
「お武家さま、金子はわたくしどもには、
なんの使いみちもございません。
あなたさまこそ、寒い長の道中、御入用でございましょう。
ここでは、物を買うことなどはございません。
たとい使いたいと思いましても、
このような大金は、わたくしどもには使いきれませぬ。
……娘はもうご自由になさるようにさしあげましたもので、
あなたさまのものでございます。
それゆえ、お連れなさるのに、
おことわりになる必要はございませぬ。
娘もお供をいたして、御意に召すあいだは、
おそばにお仕えしたいと申しております。
娘をお引き取りくださるとの御意をうけたまわって、
ただもう嬉しいのでございます。
どうか、わたくしどものことは、
けっして御心配くださいますな。
このようなところでは、娘にひととおりの衣装も、
ととのえてやれませぬ。
――持参物などは、なおさらでございます。
そのうえ、年寄りのことゆえ、どのみち遠からず、
娘とも別れねばなりませぬ。
それゆえ、今あなたさまがお連れ下さるのは、
このうえない仕合せでございます」
友忠は、老人夫婦を説いて、
贈物を受けさせようとしたが、無駄だった。
二人は、金銭にはまるで無関心だった。
ただ、娘の運命を友忠の手にゆだねることを、
心から願っているのであった。
そこで、彼は娘を連れてゆくことにきめた。
友忠は、彼女を自分の馬にのせ、
心から色々お礼の言葉を述べて、老人夫婦に、
しばらくの別れを告げた。
「お武家さま」と、父親が答えて言った。
「お礼を申さねばならぬのは、あなたさまではなくて、
わたくしどものほうでございます。
きっと、娘にやさしくしてくださることでございましょうから、
娘のことは、いささかも心がかりはございませぬ」……
- 追 記 -
ここから先の文章は、穂吉が文章をそのまま書かせていただいている「田代三千稔」氏が文章を付け加えていらっしゃいます。
そうでないと、ラフカディオ・ハーンが書いた『青柳のはなし』の後半部分と、内容がつながらなくなるそうなのです。
そこについての注意書きは、こう書かれています・・・
〈ここのところで、日本の原作では、物語の自然の進行に変な破綻があり、そのあとが妙に辻褄(つじつま)があってこない。 友忠の母親のことも、青柳の両親のことも、能登の大名のことも、それ以上なにも語られていない。 あきらかに、原作者はここで仕事に飽きてしまい、かなりぞんざいに、人々の意表にでた結末へ、話を急がせたものらしい。 私は原作者が省略した箇所を補ったり、仕組の欠如を繕ったりすることは出来ないが、しかし、すこしばかり細かい説明を加えなければならぬ。 でないと、あとの話がまとまらないからである。 ……友忠は、軽率にも青柳をつれて京都へ行き、そのために面倒なことが起こったらしい。 しかし、その後、2人がどこに住んだか、書いてない〉
ということで、ここから先はまた明日・・・
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
つづくですっ。
