『 青 柳 の は な し 』
前回迄のお話し 「青柳のはなし 1」 「青柳のはなし 2」 「青柳のはなし 3」
彼は、自分の前にいるこの田舎娘よりも美しく賢い娘に、
この世で会うことはとても望まれず、
まして手に入れることなどは、いっそう望めないことが、
今はっきりとわかった。
そして、心のなかの声は、
「おまえの行手に神様がおいてくだされた幸をとれ」
と、しきりに叫んでいるように思われた。
要するに、友忠は魅せられたのである。
あまりにもひどく心をうばわれたので、
なんの前置きもなく、いきなり老人夫婦にむかって、
娘御を自分の妻にもらいたいと乞うたのであった。
と同時に、自分の姓名や血統、
能登の守 (のとのかみ) の家臣中での地位などを話した。
老人夫婦は、ありがたさに、
幾度もおどろきの声をあげながら、
友忠のまえに身をかがめた。
しかし、ほんのしばらく、
ためらうように口ごもったのちに、父親がこう答えた。
「お武家さま、あなたさまはお身分の高いかたで、
このうえなおも御出世なされましょう。
このお申し出はあまりもったいのうございます。
まったくのところ、わたくしどもが、
いかほどありがたく思っているか、
申しあげようもないほどでございます。
けれども、てまえどものこの娘は、
いやしい生れの愚かな田舎者、
なんのしつけも教育もございませんゆえ、
とうといお武家さまの奥方などには、
不釣合いでございます。
このようなことを申しあげるのさえ、
もってのほかでございます。
……でも、娘がお気に召して、
田舎じみたふるまいをお許しくだされ、
ひどいぶしつけをお見のがしくださるうえは、
侍女として、喜んでおあげもうします。
それで今後娘のことは、御意 (ぎょい) のままに
なされてくださいませ」
夜の明けぬうちに、吹雪はやんでいた。
そして雲ひとつない東のほうから、明るくなってきた。
たとい青柳の袖が、あかつきのばら色の赤らみを、
愛人の目から離したとしても、友忠はもはや、
とどまってはいられなかった。
しかし、このまま娘と別れるのは、
忍びないことであった。
そこで、旅の用意がすっかりできると、
彼は両親にむかってこう言った。
「いろいろとお世話になりましたうえ、
さらにお願い申しては、
恩知らずと思われるかも知れませんが、
娘御を妻にくださるよう、
重ねてお願いいたします。
今となっては、娘御と別れるのは辛いことです。
それに娘御も、お許しがあれば、
わたしと同道を望まれていますから、
このままいっしょにお連れしてよろしいです。
もしも娘御をくださるならば、
おふたかたを親御として、末ながくお仕え申します。
……ともあれ、ご親切なもてなしに、わずかばかりの志、
なにとぞお納めくださいますよう」
そう言いながら、友忠は謙虚な主人の前に、
一包の金子 (きんす) をおいた。
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
つづくですっ。
