「タネがわからなかった」は褒め言葉ではない | Sunny Place

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日向大祐 公式ブログ

かつて、とある演劇業界の月刊誌にコラムを書きました。

 

いろんな方に「また読みたいです」と言っていただくことが多いので、ここにも載せておきます。

 

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「トリック」から「マジック」への昇華

 

 マジックの仕事をしていると、ショーの後にお客様から「全然タネがわからなかったです!」という感想をいただくことがある。ありがたい感想ではあるが、一方でひそかに反省もする。自分の提供したものはエンターテイメントにはなっていなかったのではないか、と。

 

 演劇に例えるなら、舞台俳優が「セリフをたくさん暗記できて凄いです!」「暗い中でも舞台袖にハケられるんですね!」と言われているようなものだ。それは出来るのが当たり前。その先に何を表現し観客の心を動かすかが重要なはずで、マジシャンも同じことを意識するべきだと私は考えている。

 

 舞台俳優が基礎スキルを身につけているのと同様に、マジシャンも様々なテクニックやタネを身につけている。しかしそれをただ見せるだけでは「トリック」止まり。そこから「マジック」に昇華するための第一歩は、その不思議が起きることで観客にどんな気持ちになって欲しいのかという視点を持ち、セリフや演じ方を設計することである。

 

 マジシャンの多くは自分自身が不思議な現象を見るのが好きなので、不思議だけを提供すれば観客が喜んでくれると勘違いしがちだが、それは時にただのパズルや知恵比べを提供しているだけの、自己満足な行為になってしまうことがある。それが全ての観客にとって楽しいわけではないし、場合によっては怒り出してしまう方もいる。

 

 しかし、適切に演出し細心の注意を払って演じられるマジックは、不思議さだけでなく様々な情動(おかしさ、恐怖、愛着、親近感、懐かしさなど)を生み出すことができる。

 

 観客の心に変容を起こす力があるという意味では、マジックも演劇と肩を並べる文化・芸能たりえる。しかし、少なくとも今の日本では、マジシャンも観客も「タネが分かるか否か」という点でしかマジックを捉えない人が多く、欧米などに比べて明らかに未成熟である。

 

 演劇を観るときと同様に、あくまで虚構であると了承の上で、その世界の中で楽しめる。そんな観客を育てるには時間がかかるが、演者が一つ一つの演技やショーを誠実に創り込んでいくしかないのだ。

 

 お客様と一緒に大笑いしながらのマジックショーを終えた後、「マジックってこんなに楽しかったんですね!」という感想をいただいたり、感動で涙を流しているお客様を見かけたりする。そんな時、マジックが芸能に、ひいては文化になっていくことに少し貢献できたように思えて安堵するのだ。

 

 

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【マジックライブのお知らせ】

マジックライブ「T.W.O.」

構成・演出 日向大祐

出演:日向大祐、古林一誠、高橋あすか

ドリンクを飲みながら楽しめる、アットホームなマジックライブです。

【日時】3/25(日)14:00開演/18:00開演(開場は開演の30分前)

【料金】大人 3000円+1drink / 子供(小学生以下)1500円+1drink

【会場】下北沢CIRCUS(下北沢駅 徒歩5分)

東京都世田谷区北沢1-40-15北沢ゴルフマンション1F

【ご予約】https://goo.gl/forms/0qkcuS9yLlJ3BAYA2