大切な時間
ここでは誰にも言えない私の正直な気持ちを書いていこうと思っています。 格好をつけずに。 よく見られようと思わずに。 自分に正直に。 結婚をしている私の恋の話です。 もしかすると気分を害する方もいらっしゃるかもしれません。 そういった方はどうかそのままスルーして下さい。 彼との時間を大切に残したいから… 本音をここで語ります。
Amebaでブログを始めよう!
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>

時の意味

彼に抱き締められて

私は今までのモヤモヤした気持ちが
優しく溶けていくような

そんな感じを覚えた


ついさっきまであんなに色々考えて悩んでいたというのに…


彼からの優しさを少し感じる事ができただけで
私は一瞬にして幸せになれる



それは嬉しいようで

少し切なくて…








その後は彼といつものような時間を過ごした

特にたくさん会話をするでもなく
テレビを見ながら
すぐ隣にいる彼を感じていた



触れようと思えばいつでも触れられるほど近くにいる彼


でもやっぱり


私からは触れる事が躊躇われて…




それは何故なのだろうか











私は彼に話そうかどうか迷っている事があった


それは

次の日曜日
旦那が会社の旅行で一泊するという事



その日私は
一日自由の身になれる




でもここのところの複雑な気持ちのせいか
彼にその事を話すかどうかを迷っていた



…でも迷っていたというより
もしかすると

“話さないでおこう”

という気持ちの方が強かったかもしれない






一泊できてしまうというこの自由こそが
私達の関係を更にだらし無くしてしまうような

そんな気がして







でも私の中で少し気持ちが変わってきていた


さっき彼に抱き締められて

素直に嬉しいと思っていた自分に気付いたから

やっぱり何があっても
彼の事が好きだという気持ちが私の中にはあるという事に気付いたから



お互い結婚している事


このままの関係を続けることが決して良くない事


いつかは終りにしなくてはいけない事






こうした事は全て縛りでしか無い


確かに今生きているこの場所ではその事は逃れようのない事実だけれども


本当に大切にしたいと思っている事は一体何だろう?


決まりや世間体だろうか?


それとも……











『…実は旦那が
今度の日曜日に一泊で旅行に行くんだ。』









私は彼に告げていた








彼は一瞬驚いたような顔をして

それから言った







『じゃあ

一日一緒に過ごせるよね。』






私は
笑顔で頷いた








この与えられた時間には
どんな意味があるのだろうか


どんな理由があるのだろうか





そしてその日は



私の6回目の結婚記念日にあたる日であったことは

彼には伝えなかった












私はいつも考えていた


彼との時間に
一体どんな意味があるのだろうかと




不思議なくらいに
二人の時間はあまり邪魔される事無く与えてもらえる



それを素直に喜べるのは最初の方だけで


今となっては
戸惑いの方が大きい





本当は好きな人との時間は

愛しく

嬉しく

幸せで



感謝したくなるほどの至福に包まれる






でもそれが当たり前に感じるようになった時





途端に戸惑いを隠せなくなる








普通の恋愛なら

それでもどうにかしようと前向きになれるのかもしれない





でも


今の私達の状態なら…









どうすればいいかなんて


そんな答えはどこを探しても見付からないのかもしれない





目の前にある現実を



幸せと感じるのも


不幸せと感じるのも



全て自分次第なのだろうから




それを無理矢理答えを出そうとするから

苦しくなるのかもしれない




単なる逃げと言われるかもしれない


自分の都合の勝手な考えてかもしれない








でも


今のこの時間は



誰のものでもなく


かけがえの無い



私の大切な時間なのだ





彼と今出会ってしまった事だって


きっと今でなくてはいけない理由があるはずだから…





今を精一杯生きよう



この一瞬を大切にしよう






今から先

どんな現実が来ようと



目を反らさず向かい合おう








今ある時間を


自分の生きたいように過ごそう









彼との思い出の一日が


始まろうとしていた。









星の輝く夜に

彼に恋をした最初の頃は

彼の全てを素直に受け入れることができた


彼が結婚している事

彼に子供がいる事

彼に楽しかった過去がある事…






彼という人の存在


ただただそれだけがすごく愛しくて

その周りのものは
私にとっては関係の無いものだった








なのに…








いつからだろう


彼の行動のひとつひとつがこんなに気になりだしたのは






彼の元彼女の存在

彼が今ひとりでいる時はどんな時間を過ごしているのか

彼は本当は
今何を思って生活をしているのか…






今までそっと押し込めていた感情が

次から次へと溢れてくる






今になって

どうしてこんなに…













私は
彼と出会った最初の頃から思っていた事があった

それは










彼を独占したいと思う感情が出てしまったら



もう
二人の関係は終りにしないといけないと……












なぜなら



こんな感情を抱えた私は

無意識に
彼を苦しめる事になってしまうかもしれないから






自分でいくら注意をしていても

行動の端々から
私の勝手な感情が出てきてしまうかもしれない




もしかすると


我慢できなくなって爆発してしまう日だって来るかもしれない






そして


彼を傷つけ


自分もとことん苦しむ事になるだろう…









これ以上は


もう許されない













……こんな事を思いながらも結局私は


頭の中だけ分かっているつもりになって

実際は何も分かっていなかった










だって私は

迷いながらもまだ

彼の元へと通い続けていたのだから…







仕事が終わった後

彼はいつものようにメールをしてきて



私はいつものように迷いながらも

結局は彼の家へと向かっていた








彼と過ごす時間はやっぱり嬉しくて

その時は
彼との事で迷っている自分を忘れてしまっているかのように

この場所にいれる喜びを感じていた




















体調は相変わらず良くなかった


でも私はそんな体でも
彼の元へと向かってしまう…






こんな自分の行動が
自分でも理解できずに


家に一人いる時などには

苛立つ事が多くなった




私は一体


どうしたいというのだろうか…

















季節は

秋から冬へと移り変わろうとしていた



つい先日まで
眩しい日差しに照らされていたような気がしていたけれど


いつの間にか
あちこちで冬の気配を感じるようになっていた










私はまた


旦那がバイトに出掛けた後に

彼の家へ向かう





そしてその帰りには

後悔のような複雑な気持ちになる





その繰り返しで…





何も変わっていなかった












彼の家からの帰り



自宅に着いてから車を降りると

もう外の空気はひやっと冷たくて

思わず腕を体に巻き付ける





急に冷えてきたなぁ…



そう思いながら夜空を見上げてみて


私は驚いてしまった






遠くの空に
色とりどりのたくさんの星が輝いていて



それがあまりにも綺麗だったから…






もういつの間にか
こんなに星が綺麗に見える時期になっていたなんて…



そんな事を感じる余裕も無く毎日をなんとなく過ごしていたのが
もったいなくて









真っ黒な空に

光輝く無数の星は

こうして目には見えるけれど

実際はすごく遠くに存在していて





いくら追い掛けても

この手に届くものではなくて…












そんな星を見上げながら




私は

彼との本当の意味での距離を感じていた




手を伸ばしても

届かない彼の心



手を伸ばしても

届かない彼の存在








今のままでは何も…














ふと悲しい思いが頭をかすめ


ひとり小さく呟いた










『…いつ

終りにしようか……。』








星は何も言わずに

優しい光でこちらを照らしながら

私を見下ろしていた

















それから
数日が経ったある日


私はまた彼の家に向かっていた



なんとなく落ち込んでいて


彼との事を前向きに考えられなくなっていた私




気持ちが浮かない








彼の家の駐車場に着いて


いつものようにメールをする




『着いたよ』







メールを送信して


彼の部屋の扉に視線を移す




その扉の真ん中は
半透明のガラスになっていて


玄関の明かりが付いたら
そこから光が漏れる




その明かりを確認してから私は車を降りて彼の部屋に向かう




そして歩いている途中で


扉が開き
逆光になった彼のシルエットが浮かび上がる






彼のシルエットの目の前まで来て


私は当たり前のように
彼の後に付いて部屋に上がる





いつもそんな始まりで

今日もそうだと思っていた









扉が開き


彼のシルエットが浮かび上がる





そこまではいつも通りだった








でもこの時彼は

玄関から表に出てきて

私の方に向かって歩いてくる






そして

私の目の前で止まった








…どうしたのだろう?







私は暗い中で

目の前まで来た彼の顔をじっと見つめた









すると


一瞬の出来事だった





彼の陰が目の前で急に大きくなって




体に暖かい体温を感じた


















私は彼に












抱き締められていた











彼と一緒にいるようになって




初めての出来事だった








外で抱き締められる





彼の家の前で…









また空には


無数の星が輝いていて







私の目の奥が

じわりと熱くなるのを感じた








背中を向けた夜

ここ最近の
彼からのメールがそっけなくなっている事に気が付いて


それは
私の今の複雑な気持ちを彼が感じとっての事なのか

それとも
もう私の元から去ろうと考えての態度なのだろうか…



考える事は
悪い方向ばかりになってしまっていた




彼と私の想いは所詮実らぬもの

こうなって当たり前なのかもしれない




私達の恋愛なんて

こんなものかな…








以前あれだけ真剣に彼との事を考えていたというのに


なぜだか投げ遣りな気持ちになっていた





彼の気持ちを信じていたはずなのに



それなのに私は


すっかり自信を無くしてしまっていた







やっぱり私は


彼を信じてあげる事ができないのだろうか…





自分の想いや都合ばかりで

次から次へと気持ちが入れ替わる











そんな中で

一週間ぶりに彼に会うことになった







理由は

一週間ぶりに誘われた


ただそれだけだった





彼の誘い方も
以前のようなもので無くなっている事を
嫌でも感じさせられるものだった






『今日来る?』










来る?
って…


いつからそんなに当然のようになってしまったの?


そんな気軽な気持ちでいいの?











久しぶりに誘われて


本当なら飛び上がるくらいに嬉しい事なのかもしれないのに…




でも私は
その時あまり嬉しく感じなかった



せっかく彼から言ってくれている事だというのに


私は
その誘い方に不満があった







彼は

単なる暇つぶしだけに私を誘っているのかな?




呼べばいつでも来るから
都合良く使っているのかな?




そんなひねくれた考えが頭の中を占める










でも

そんな事を思いながらも




私の正直な気持ちは




彼に会いたかった








いくらどんな事があっても

彼の側にいれる幸せは
まだ私の心の中に残っていた








結局その日

私は彼の元へと向かった










彼の家に着いて

玄関で迎えてくれる彼の顔を見る




嬉しいような

嬉しくないような


どこか複雑な思いだった









部屋に入って
私はいつものように彼の隣に座る



なぜか


お互いよそよそしい





この感情は何だろう?


今まであんなに幸せを感じていた場所に居るというのに


今日の私は
どうしてその事を素直に喜ぶ事ができないのだろうか








二人の間に
しばらく沈黙が続いた





私は何をする訳でもなく

じっと彼の出方をうかがっていた













それからしばらくして

彼が突然切り出した話に



正直私はギョッとする










『昨日

元彼女が遊びに来たよ。』









………



え?



元彼女が?


ここに!?


彼が一人で過ごすこの場所に!?


以前心を通わせていた者同士が



この小さな空間に!!!???








一瞬
頭の中で何かが沸騰するようなそんな感覚を覚え


それから
一気にテンションが下がる事を感じた










でもその事を彼に悟られるのが嫌で
私は何でも無い振りをして彼に言う





『へぇ…そうなんだ。』









それ以上何も言わなかった



いや




言えなかった…








彼は自由なのだ



彼が私がいない時に

誰に会おうと

何をしようと


彼は自由なんだから…









そのことについて何も聞かない事が


今の私にできる


精一杯の抵抗だった








本当は
気になって仕方が無い





元彼女が遊びに来て

どんな話をしたの?

どんな時間を過ごしたの?


その時間…

楽しかった?


そもそも

なぜ元彼女が遊びに来る事になったの?







私は
やっぱり悔しかったのだろうと思う



こともあろうに
ついこんな事を言ってしまった





『私は
旦那と出かける約束をしたよ。』








彼は





『そう。』







それだけしか言わなかった




はっきり言って旦那と出掛ける予定なんて無い




ただ


私の知らない時に

私たちが気持ちが離れそうになってしまっていたこの時に


彼が
元彼女に会っていたという事実が



あまりにも悲しかった









今の私では
やはり彼に何もしてあげる事ができない




単なる現実が

とても重い事実で






でもそれは私自らが選んだ事だというのに…




そんな自分勝手な思いに気付き


また自分に嫌気がさす












お互い一体何を思っているのか分からないまま


しかし
それをお互いが確認するような事もせずに



時が過ぎていく







その時の彼の気持ちは

一体どんなものだったのだろうか


私が少しだけでもその事を考えることができたのならば

つまらぬ意地を張らずに
素直に彼に聞く事ができたのならば


また違ったのかもしれない




しかしその時の私には

そこを考える余裕すら無かった







自分の思いを押さえる事


ただただ自分の事だけで
精一杯だった









そんな時間を過ごしているうちに

時計の針はもう夜中を示していた



彼は明日も仕事

私は旦那が帰って来るまでは自由




少しの間寝ようかと
布団に入る事にした








いつもなら


布団に入れば
彼は私に手をさし伸ばしてくる



それが嬉しくて
私はいつもその手を握り返していた






でも今日は…









お互い

反対を向いていた










私は全然寝つくことができず

目を閉じては
また開けてを繰り返していた








隣に彼を感じても


何も思わない


今まででは全く考えられない事







たったこの一週間で
私達は何が変わってしまったのだろうか?









もう本当に

ここに来る事を止めなくてはならない日が来たのだろうか



今が

その時期なのだろうか…








その感情に耐えられず

私は初めて



時間が早く過ぎてくれる事を願っていた




大好きだったこの場から


早く離れたいと思っていた








彼の寝室の奥の方に置いてある

文字盤の光る時計



それを私はこの日に

何度確認した事だろうか




いつもはその時計を見ては

あととれくらい彼と一緒に過ごせるかを確認していた


その時間がまだ長いなら

安心して彼の隣で眠ることができていた



確認するのが楽しみなようで
時が刻まれていくのが少し怖かった



この時計…






今日の感覚は

今までとはまるで違う














そしてようやく
時計が帰る時間を示した



隣を見ると

彼はぐっすりと眠っている様子




起こさないように
私はそっと布団から離れて

荷物を取りに部屋を出た









それからもう一度寝室に戻ると


さっきまで寝てはずの彼が

起き上がっていた








私は少し驚いたけれど

何もない振りをしていた





すると彼は
少し寝惚けたような眼差しで私を見て

まるで親とはぐれた子供が
やっと親を見つけたみたいに


私の元へ来て
甘えてひざの上に頭をのせてきた







『…隣にいなかったから

もう帰っちゃったのかと思ったよ…。』










その言葉に


私は一瞬で

グッと胸を強く締め付けられるような

そんな思いをした






本当は彼も

寂しいのだろうか…






そんな彼を見て



さっきまでは
もう来ない方がいいのかもしれないと思っていた私が





『…また来るから…。』





と言って

彼の頭をやさしく撫でていた





彼は

私に向かって両手を伸ばしてきた








私は優しくその手を受け入れ






彼にキスをした







唇に触れるだけの



でもとびきり優しい気持ちのキス








まだ寂しそうにぐずる彼がいたが


もう時間だ




『おやすみ』




そう言って

ゆっくり手を離して




私は部屋を後にした









自分の事だけで精一杯になっている時は

相手の気持ちに気付くことができない



彼の寂しさを


この時もっと理解してあげる事ができていれば




あんなに彼を傷つける結果にはならなかったのかもしれない








私のエゴ

彼に出会った頃は初夏だった


日に日に熱さが増していき
太陽が高い位置からこちらを照らしている

そんな眩しい日差しに目を細めながら

私は楽しく仕事をしていた




そして

彼と恋に落ちた








私の中で

忘れられない季節となった










夏の一番暑い時期を越えて
涼しくなり始める頃は


なんだか安心する気持ちと

少し切ない気分になる



今はもうそんな季節に差し掛かっていた








彼の別居生活はまだ続いていた


そして私達の関係も
何も変わらず続いていた




毎晩のメール

旦那がバイトに行った後に会いに行ったり


自由に過ごせていたと思う





でもこの自由こそが


私を悩ませるきっかけとなっていくのだった









今までは
彼からメールが来るだけで私はワクワクしていた



そのワクワクというのは


やはりいつでもメールができない二人だからこそ
その気持ちが大きかったのだと思う




しかし今はお互いに自由な時間ができた



彼とメールをできる事や

会いに行ける事


彼に関わる事全てに幸せを感じていた私だったけれど


何かが違うと感じ始めていた








こうして自由に会えるようになったとしても
所詮私達は今の時点では秘密の関係なのだから




会えたその時は良くても

結局は離れてしまえば他人の振りをしなければならない二人なのだから





気持ちというのはなんと贅沢なのだろう

欲しい物が手に入ってしまったら

また次が欲しくなってしまうのだから…








そんなある日
彼とのメールの時間



なんだかメールをする内容がそっけ無くなってきているような気がしていた


確かに毎日のようにメールをすれば話をするネタも尽きてしまう

私が仕事をしていたり外に出ていたりするならば
私の方から何かの話を出す事ができるのかもしれない


しかし私はずっと家にいて
体調もすぐれない


話す事が見付からない




彼は元々たくさん話をするタイプではない

仕事の事や職場のメンバーの事を聞いても薄い反応しか帰ってこないのだった









彼とのメールで何を話そう?







楽しいメールの時間が

少し複雑な思いになる時間になっていた








『会う?』



彼からこんなメールが来た時に

ちょっと考えるようになってしまっていた





彼の家にこうして遊びに行っているけれど

彼の家は
まだあくまでも彼の家族の家なのだ




最初の頃こそは何かがあってはいけないとソワソワしていたけれど
今はどうだろうか


何も無くて当たり前と安心してしまっているのではないだろうか




彼に呼ばれて何も気にせずに遊びに行ってしまっているのではないだろうか





私がしている事は

どれだけ危険な事か自分で理解できていないのでは?





そもそも自分だって決心して旦那の元に戻ったのだというのに

旦那がバイトに行った時間を利用して


私は彼に会いに行っている








このままではいけない






このままこの状態が

『当たり前』

になってはいけない…








そう思いながらも
結局私は

体調さえ悪くなければ彼の元へと行ってしまうのであった







心の中が

乱れていく事に気付いていた



でも

彼に何かを伝える勇気はどこにも無い

そんな弱い自分だった












そんな事を考えていたからだろうか



それから少しすると


彼から

『会おう』

というメールが来なくなってしまったのだ





やはり
気持ちというものは
相手に伝わってしまうものなのだろうか…

私のこの心の中が
言葉ではなく態度やメールのやりとりなどに表れてしまっていたのかもしれない






いざ彼から会おうと言われなくなってしまったら



なんとなく淋しい気持ちになるのだった





完全に私は

彼の言葉ひとつに

大きく左右されてしまっていた



自分の考えや気持ちを
伝えようと思うことすら

私の中には無かった








私はずっと彼が今どう思っているのかを気にしていた


もう私との関係に飽きてしまったのだろうか

会いたくても会えなかったからこそ

彼は私に会いたいと思っていたのだろうか



こうして前に比べて自由になった今

もうあの頃のような新鮮な気持ち
会える時間が貴重だと思っていた気持ち
それが失われてしまったのだろうか






でも…


もしそうだとしたら

彼は私にメールもしてこなくなるのではないだろうか


今はまだメールは続いているのだ


あの面倒な事を嫌う彼が
もう飽きてしまった関係をダラダラ続けようとするだろうか…?







悪い方に考えようと思えばいくらでも考えられる


そして


いい方に考えようと思っても
それも同じでいくらでも理由は考えられる




もしかすると
最近仕事に余裕ができたから
彼の気持ちにも余裕ができたのかもしれない


もう一人でいる事に慣れてきたから私を呼ばなくてもメールだけで十分なのかもしれない



色々あてはめては…



安心しようと思っている私








結局私が今こうして思っている事は

全て自分のエゴだ






これは

私のエゴだ







自分の思い通りに相手を支配したいと無意識に思ってしまっている

私のエゴ




それを自分で思い描き

ひとり勝手に苦しんでいる








本当に信じたい事って

一体何なの?










私は彼を
信じていたいのではなかったの?











自分から好きだと言ってくれた

彼のことを

彼の言葉を…






私は信じていたい









私の求めている幸せとは何だろうか


彼と一緒にいたいと思うこの気持は





もしかすると




もしかしなくても








私のエゴだろう








今のままでは


何も進まないことに


本当は気付いている







刻まれる思い

彼に久しぶりに会えて
私の気持ちは随分明るくなっていた


会う事を悩みながら
体調を崩しては

結局は会ってしまったら
気分が晴れる


そんな自分が
自分でも理解しにくかったけれど


彼に会った日には

嬉しい気持ちで一杯になっている事だけははっきりと分かっていた




自分のしている事が良くない事だと頭では理解できていても

心の中までも誤魔化す事は無理なのだろう



私はやっぱり


彼が好きで



彼と一緒にいれる時間が



とても幸せだった











『明日も会おう

これで帰れるよね…。』


彼がそう言ってくれて
ようやく帰れた昨夜だった






そして今日は日曜日

私は午後から彼の家に向かっていた



昼間に会う彼は
昨夜の雰囲気は全然無くて

いつもの彼だった


あまり口数が多くなくて
何を考えているか不明な
いつも通りの彼


でも私は
そんな彼を見て安心していた




あまりたくさんの会話をする事は無く時間が過ぎる


そんな時間が
愛しく感じる







少し日が落ち始めた頃
彼がベランダへと目をやった


『そろそろ乾いたかなぁ。』



彼が気にしていたのは
洗濯物だった


彼は独り暮らしをしているようなもの

洗濯だってもちろん自分でしなければ誰もしてくれない



彼は外の様子をうかがうと

スッと立ち上がりベランダへ向かった



洗濯物を全て取り込み

一人でたたみはじめる



そしてぼそっとこう言った


『俺がこんな事をしている姿

会社の誰もが想像できないだろうなぁ…。』



顔は笑っていたけれど


出た言葉は溜め息混じりのものだった





その姿があまりにも寂しげで…


私はただただ
その姿を見つめる事しかできなかった









彼は洗濯物を隣の部屋に片付けに行って
数分後に戻ってきた



今度は何やら
封筒やハガキのようなものをいくつか手にしている




『支払いに行かなきゃいけないのだけど…

時間が無くてね。』



そう言いながら
手に持っていたものをテーブルの上に置いた



それを見てみると

公共料金や税金の請求書だった



どうやら彼の家は
光熱費等の支払いを口座引きにしていないみたいだった

毎回奥さんか支払いに行っていたのだろう


こうして支払いに行ってくれる人が現在いない彼は
時間も無くてどうしてよいのか迷っていたみたいだった



私はそれを見てすぐにこう答えた


『私が行って来ようか?』




今までは
彼の家庭に関する事はなるべくしないようにした方がいいような気がしていた


お互いの立場を考えての事はもちろん

私がこれ以上彼に入り込んでしまわない為にも…




でも今回の場合は彼がどうしてもできなくて困っている事だった


それくらいなら

させてもらってもいいのではないだろうか…



せめてそれくらいの事ならば

私にさせてもらいたい…




色々な思いを胸にしながら

私は彼を見た





『本当?

そうしてもらえると助かるよ。』



ちょっと安心したような顔をする彼がいた




『それくらいの事だったら遠慮せずに頼んでよ!

だって仕事も忙しくて自分ではどうにもできないのだからね。

私で役に立てるのならば!』



ちょっと明るめに私は言った

彼が負担に思わないように

私に気軽に頼み事をしてもらえるように









あくまでも私達は他人で

世間に公表できるような間柄でもなく

何をするにもまずひと呼吸置いて
いつも何かを気にしながら行動している



それが私達の現実で

それを分かって
彼とこうして一緒にいるという選択をしている



もっと楽な道が他にあるのかもしれない


でもやっぱり
この道を通る苦しさや悲しさを想像できたとしても


その道を選んででも

彼と一緒にいるという事を


私は選んでいる






ほんのちょっとした事でも

彼に関する何かをしてあげられることで


心の底から喜びが溢れてくることが分かる




やっぱり私は

彼に何かをしてあげたくて


少しでも彼の近くにいたいというのが本音で…








そして私は

彼から料金を預かり
頼まれ事を引き受けてから家に帰ってきた









次の日
私は朝一番で支払いの為に銀行に並んでいた


まだ時間も早いというのに窓口はとても混んでいて
体調が悪い私は待ってるだけでもウンザリ来そうだったけれど

これが彼の為にしてあげられる事なのだと思い出した瞬間に
そんなモヤモヤした気持ちも穏やかになっていくのだった




暫くすると私の番号札の呼び出しがかかった




『支払いをお願いしたいのですが…。』


私がそう言うと
窓口の女性がこう言って一枚の紙を差し出してきた





『こちらにお名前とお電話番号をよろしいでしょうか?』







名前?





名前と言えば
この支払いをする人の名前であって


私は彼の代理だけど

私の名前を書いても仕方が無い訳で…







ちょっと考えた結果

私は
何事も無いように

用紙に彼の名前と電話番号を記入した





彼の名前を書く時

なんだか照れ臭くも


嬉しくあった



たったそれだけの事だけど

ワクワクしている自分がいて…




今ここの世界だけでも
彼と私が何かの繋がりを持っているような気がしていた










『少々お待ち下さいませ。』



そう言われて私は
人で溢れかえっている待合い席の所で待つ事にした








まだ彼の名前を書いたドキドキが残っていた



彼に関する事全ては
どんなに小さな事でも
心の中に大きく響いて残っていく




まさか
彼の名前を今日こうして書く事になるなんて考えてもみなかった


そして
そんなちょっとした事で感動している自分にも

少し驚いていたかもしれない











『真田様~…』









!?








彼の名字を呼ばれて

思わずドキッとして辺りを見回す





あ…

彼の名前を書いていたのだから

彼の名前で呼ばれるんだ!




私は慌てて窓口へと行って手続きを済ませた











銀行を後にして

ずっと考えていた




今日のあの瞬間

私は
彼の名字の人間になっていた



周りには知り合いもいなければ

私と関わりのある人も一人もいなかったと思う







でも私は

それでも嬉しくて



その瞬間が

とても楽しくて










彼の名字で呼ばれる事なんて

もうこの先は一度も無いかもしれない






だからこそ


そんなちょっとした事でも大切な思い出になる







どんな事でもいい


彼と何かの繋がりを持つことができるのならば



そしてそれは

ずっと私の胸に秘められて

大切に大切に
残されていくものになるだろうから




どんなに小さな事だって

人から笑われるような事だって



その価値は私にとっては
永遠の宝物なのだから…










こうして彼との思い出を心に刻んでいた日々だったのだが



やっぱり




このままこの心の平穏が続いていく訳では無かったのだった








切ない夜

家を飛び出し
夢中で車を走らせる私の行く先は

まだ私が彼と一緒に仕事をしていた頃に一度待ち合わせた
大通りから奥に入った静かな田舎の駐車場だった



確かその場所に行った日は
私が先に家に帰ってしまっていた日



今以上に彼に全然踏み込めていなくて

彼のとる態度のひとつひとつを探るように見ては

彼が本当は何を考えているのか
そんな事ばかり気にしていた頃



あの日も家に帰り着いていたというのに
彼から送られてきたメールの

“会いたいね”

というひとことだけを見て


私は彼に向かって急いで車を走らせていた




実際は今も

その頃と何も変わっていないのかもしれない…











待ち合わせの場所に着くと

暗い駐車場の奥の方に
彼の車が停まっているのが見えた


私は隣に車を停めて
彼の車へと降りて行った









一週間振りの彼

たった一週間振りだというのにすごく久しぶりに感じた



彼の姿を見た途端


すごく愛しさを感じた





私も体調不良があり
思うように出てこれないもどかしさや不安があったから…







彼の隣に座り

お互いの目を見つめて


彼は私を優しく抱き締めてキスをしてくれた







『…どうした?

何があった?』



ここのところ何もできない不安や不満
出かけられない心細さ

精神的に疲れていた



そんな私に彼はやさしくそう問掛けてきた




『…ううん』






私は彼に抱き締めてもらってすごく安心していた


いつも思っている
不安な気持ちや
辛い気持ち

全てがどうでも良いことになってしまうくらいに









『会った時
本当はもっと色々話したい事があるんだ。

たくさんたまっているはずなのに…
こうして会ったら
それも忘れてしまうんだ。』



彼が珍しく
そんな言葉を口にした



あまり話をしない人だと思っていたから
私にとっては意外な言葉のように思った



彼の話したい事って…
何だろう?






『何?

話して……?』





『いや…

本当に会うと忘れてしまうんだ。

きっと
会えたからもうそれでいいんだよ…。』





また彼は私を抱き締め






『会いたくて

会いたくて仕方がないんだよ………。』






溜め息のような消えそうな声で
そう言った










私は途端に切なくなった









『最近…

全てがもうどうでもいいんだ…。』





なんとなく投げやりに彼が言う





そして

しきりに目を擦っている








『…泣いてるの?』



私が聞くと





『分からない…

勝手に涙が出るんだ…。』




泣いている感じではなかったが
自然に涙が目に溜っていくみたいで


彼はずっと
それをぬぐっていた









彼の胸の内を
はっきり聞いた事は無い


でも伝わってくる

彼に触れたその時や

彼が見せるその仕草から









今の私達は

今のこの状態が自然なのだろうか?



どうして一番近くにいたい人と

こうして離れていないといけないのだろうか…




彼にとって


今一番近くにいてほしい人は


本当は

誰なの…?














とても静かな夜


車の通りも少なくて


まるで今ここに二人しかいないと錯覚しそうになるくらいに







家庭がある事ですら

忘れてしまいそうになるくらいに…



静かな時だった











彼はいつまでも私を抱き締めてくれていた



ぎゅっと抱き締めては…


愛しそうにキスをしてくれた







『こうして抱き締めると
小さいね。

ほら、こんなに…。』




彼の大きな体に

私の体はすっぽりと包まってしまう



彼の大きさ

暖かさを感じて…

私もまた更に彼を強く抱き締めた




お互いが

ただただお互いを感じればそれだけで満足だった
















どれくらいそうしていただろうか








いつの間にか時は過ぎ

自宅へ帰らなくてはならない時間になっていた





『もうそろそろ帰らないと…。』



私がそう言うと

彼は




『そうだね帰ろうか…


オレの家に。』





おどけてそう言った






でも…





『本当に連れて帰りたいよ…

寂しいんだ…。』





いつもはあまり本音を言わない彼のそんな言葉に


私はまた
彼と離れるのが辛くなった








『そんな事言ったら

本当に帰れないよ…。』






悲しくなり彼を見つめると








『…じゃあ明日も会おう。

これで帰れるよね…?』








彼は家に帰ってもひとり


言いようのない寂しさなのだろう



私も寂しいけれど…


今日はもう帰ろう





そうしないと


本当に帰れなくなりそうで…




少し怖かった










別れを惜しんで

またキスをして


そして私は自分の車に乗り込んだ












逆方向へ行くお互いの車


別れる前に


車の中から手を振った








私達以外の車が全く無い中



私はバックミラーで
彼を見送った




彼の乗る車が

段々遠く小さくなり

そして暗闇の中へと消えていった














自宅に帰りついて

彼にメールをした





『今日はありがとう

会えて良かった…


おやすみなさい。』







そのメールの最後に
たくさんの行間を空けて






『大好き』





今の正直な思いを込めて

そう入れた





彼は
おそらく気付かないだろう…












少しすると
彼から返事が来た







『良かった

オレももう少ししたら休むよ。』






予想通り彼は

全く気付いていない様子だった





私はクスッと笑って


携帯の画面を閉じた
















彼と過ごせた

ほんの数時間の短い間



何をする訳でもなく
ただ一緒にいただけ

それだけだったけど




私の心の中は

何か暖かいものに包まれているような

穏やかな気持ちだった





彼と会えるだけで

彼を近くに感じるだけで



現実の世界ですら

夢の世界に変えてしまう



そんな力を

彼は持っているのかもしれない






大きな力

私の体調はそれからしばらく回復せず
気持ちも更に落ち込むばかりだった


唯一支えられているものは
彼から毎日送られてくるメールだったように思う








ある日彼と私は久しぶりに会う約束をした


体調不良が続く私は
彼に会いに行く事ができるか不安だった

しかし仕事をしていた頃は毎日会うのが当たり前だったので
たった数日彼に会えないだけでも
それはとてつもなく長い時間に感じていた








約束の日

案の定私の体調は悪く
起き上がるだけでも辛くて仕方が無かった



彼が仕事が終わる時間
いつものようにメールが来た


『終わったよ』





そのメールを見て
どう返事をしようかすごく迷ったけれど

今の状態で彼の元まで行こうとするのは無理だという事が分かっていた



たとえ無理して行ったとしても
こんな疲れきった姿を彼に見せたくない…




仕方が無いので
現状を伝える事にした



『ごめん体調が悪くて…』







送信ボタンを押した後

今更のようにこんな返事をしてしまった事に戸惑いを感じていた。




せっかく会う約束をしていたのに
また体調が悪いなんて

彼はどう思うだろう?


もうこれから先
彼の方から
“会おう”と言ってもらえなくなってしまうかな…



自分勝手な気持ちと分かっていながらも
そんな心配をしてしまう




彼からどんな返事が来るだろうか







間もなくメールの着信音が鳴る


何故だか私は
慌ててそのメールを開いていた



そこにあった返事は






『大丈夫?』









彼は私を心配してくれていた



なんだかそれが嬉しいけど

そんな彼に会いに行きたいのに行けない自分が


悲しかった




どうして私は
こんなにずっと体調が悪いのだろうか?


せっかく彼に会える貴重なこの時間に
どうして私はここを出る事ができないのだろうか?




こんな自分が悔しくて


でもどうする事もできなくて…





『本当にごめんね…』





ごめん…


謝る事しかできない



私は


何もできない








またメールの着信音が聞こえる


彼からの返事は



『仕方無いよ…』







彼は今
どんな気持ちでいるのだろう



私だけではない


彼も一人で
苦しんでいるだろうに



家族と離れて

本当は辛くて辛くて
仕方が無いだろうに









『何もしてあげれれなくてごめん』




こんな返事をしたけれど

こんな言葉だけでは何も伝わらないかもしれない


でも何もできない事が
本当に悔しくて








深い溜め息をついて
横たわる私の耳元で

またメールの着信音が鳴る





そこで見た彼からの返事に

私は


心の奥底から

じわりと広がってくる暖かさを感じた






『そんなことないよ。
いるだけでオレは助かっているよ。

いなかったら一人で悩んでダメになってたよ。』








私は

少しでも彼の支えになる事ができていたの?



本当は何もできていなかったと思う


でもこうして彼から伝えてもらった事が



嬉しかった








『…ありがとう。』



こうしてメールで伝えても

気持ちまで乗せる事は無理かもしれない



今すぐ側に行きたい

彼のすぐ側に…






『今日は会うの無理かな?』



彼からの優しいメールに

また悲しい気持ちが
心を埋めていく





こんなに彼に会いたいのに

その私自身の体は
なぜこんな状態なのだろう…





どうすればいいのだろう








彼の時間だって大切だ


私の都合だけで
彼の時間を無駄にする事はできない





今は

会う事を我慢するという決断をするしかなさそうだ




そう思っていたはずなのに…

私の返事は
諦めのつかないはっきりしないものだった



『体調さえ悪くなければ…』








何を言っているのだろうと自分でも思う

嫌気までさしてくる




でも私は
自分の中で戦っていた



“体を休めろ”
という気持ちと


“無理してでも会いにいけ”
という気持ちが






その気持ちに対して
彼から来た返事が




『今から家に行こうか?』






彼は人を自分の家に呼ぶ事はあっても

自分からはなかなか人の家に行かない



彼から家に行こうかと言われたのは
初めての事だった



そんなにまで彼は
思ってくれているんだ…



本当は
その言葉が嬉しくて嬉しくて仕方が無かった





その気持ちを素直に表せばいいというのに

ここでまた私は
心とは逆の返事してしまう




『いいよ
仕事で疲れているのに来てもらうのは悪いよ』






なんでもっと素直になれないのだろうか





もっと素直だったら

もっと彼と近付けるかもしれないのに


素直に嬉しいよって言えれば

もっと二人は分かり合う事ができるかもしれないのに…




どこかでまだ

気持ちにブレーキをかけている私がいる








でもまた彼から来たメールに


私のブレーキも

壊れてしまう事になる






『何かオレにできる事無いかな?

少しでも元気になれるなら…』








私はこの瞬間

自分の体調に負けないくらいの大きな気持ちが膨らんできた





“今すぐ彼に会いたい”





たったひとつだけど

とても大きくて

自分の今を変えてしまうくらいの

大きな力を持っているこの気持ち








私はやっと自分に素直になった





『会いたい』








その言葉を送ると


私は家を飛び出した








自分の体調なんて関係無い


今私は

彼に会いたい…






久しぶりに会える彼に向かって

車通りの少ない夜道を

私は夢中で車を飛ばしていた






分からない自分

仕事を辞めてから
時間がたくさんあるせいか

いつも考え事ばかりしていた。


それも
考えは全くひとつにまとまる事が無くて

いつもどこかでひっかかり

迷って

悩んで


でも結局結論が出る事も無く

同じところを行ったり来たりしていた。











彼とは
頻繁には会えなくても

毎日メールだけはしていた


それは昼休みだったり

彼が仕事が終わった時だったり

彼が身の周りの事を済ませた後だったり…




旦那がバイトに出掛ける時間が
丁度彼が寝るまでの全ての準備を終える頃


その時間は
いつも二人のメールの時間になっていた






内容は日常的な他愛の無いものだった

彼から送られてくるメールは…


今日も一日頑張って仕事をした事

その後に家事をして更に疲れてしまった事

でも家事が終わってしまったら時間ができて暇になってしまう事



こんなちょっとした会話ではあったが

一日に
何度も何度もメールの交換をしては

彼と少しでも繋がっていれる事が嬉しくて



ゆっくりできる貴重な時間に

彼が私にメールをくれる事

その事が何より嬉しかった







でも
いつも感じていた





彼の寂しさを








ふとした時に送ってくる


彼のメール









『会いたいよ…』









普段は我慢しているのだろうけれど

彼は
本当は一人で寂しくて



そんな時に


私に会いたいと思ってくれていて




気持ちを乗せたメールを

送ってきてくれて










そんな時私は



居てもたってもいられない気持ちになる













私は

分かっていた



自分の本当の気持ちを…






でも

私の今の生活は

誰のお陰で…
できているの?








旦那は
私が戻ってきてからも

毎日熱心に働いていた



昼間の仕事が終わってクタクタになった後

家で食事をして
少し一服した後には

またバイトへと出かけていく

まるでそれが
当たり前の事のように



もう体力的には限界のはずなのに

旦那の口からは

一切の弱音を聞く事が無かった。






私は
そんな健気に頑張る旦那の姿を見て

私ばかり逃げていてはいけない


そう思って
ここに戻ってきたはずだった


お互いを差さえ合い

もう一度頑張ろうと思って戻ってきた








そして

彼に対する私の想いが

これ以上強くならない為にも…



この決断をしていた














しかし今

私がしている行動は何だろう?



旦那は

私達のこれからの為に
必死になって働いているというのに


私はその時間に




何をしているのだろう…





私のした決断って

何だったのだろうか?










そんな事を考えると

もう全てを投げ出してしまいたくなるような衝動に駆られる






しかし

また彼からメールが来たら



心の底から溢れる喜びを

止める事ができない

自分がいる








人を想う気持ちは

自分が思っているほど

簡単ではなかった…








理屈や世間体

それだけで片付くものでは無かった







でも私は

いくら彼へ対する気持ちが大きくても



その彼に
何をしてあげる事もできていない





やっぱり

自分の都合で

この先を考えてしまっている…?








自分がこれからどうしたいか

それを考え出したら止まらなくなり

ある日
彼からのメールが来ても

返せなくなってしまった事があった




しばらく時間を置いて

ようやく彼にメールを返すと


彼からこんな返事が来た





『メールが無いから

何かあったんじゃないかって心配していたよ…。』





彼は

ちょっとした私の変化に

敏感に気付いてくれている






瞬間

私の胸に熱いものが広がる




今すぐにでも

彼の元に行きたい…











それから

私の体調は更に悪化していった



起き上がれるならまだいい方で

悪い時には
ベットから出る事すらできずに一日が過ぎていくのだった





特に体に悪い部分がある訳ではない
でも何もできない自分



そんな私に対して

旦那は何ひとつ文句を言わない



それはすごく有難い事だというのに

私は
こんな自分が情けなくて仕方が無くて

旦那に対する感謝の気持ちよりも先に
自分を責めるばかり


しかし責めたところで

何ができる訳でもないのに…









私は

色々考えては自分を責めていたけれど

でもそれは全て
最初から分かっていた事なのだ




夫がいるのに

他の男性を好きになる事




その事がどんな事を表すか



そして
その気持が強くなればなるほど

自分が苦しくなる事






今自分が苦しいのは

ただそれだけの事なのだ


分かってやってしまった事が

今自分にはね返ってきている

ただそれだけの…











彼の幸せだけを願う事ができるのならば

どれだけ楽だろうか






自分が叶えてあげられなくても

他の誰かが彼を幸せにしてあげる事ができるのならば



そしてそれを

心の底から喜んであげられる自分でいれるのならば…




幸せのある場所は…

彼の一人での生活が始まって一週間ほどが過ぎた頃

私は
彼に会いに行った



出掛けた時間は

旦那がバイトに行った後







一人での生活を送り続ける彼の事を
私は色々頭の中で考えていても


何かしてあげるどころか

結局は
会いに行く事すらできていなかった








今回の事があって

ひとつ
私たちに与えてもらえたものがあった


それは


“時間”




私が仕事を辞めてからは

二人は
そう簡単に会う事ができなかった



お互い家庭を持つ身だから
それが当たり前の事




従って

彼に会う時間は
ほぼ無いに等しかった







でもそれが



今の彼は
ひとり


私は
旦那がバイトに出掛けた後は時間がある



会おうと思えば
会える時間ができていた








しかし

それが分かっていながらも

実際は
ほとんど会いに行けていなかった



色々考えていたからというのもあったけれど

会社を辞めてからも続く
私の体調不良も
理由のひとつだった










そして
ようやく彼に会いに行けた日…



私は相変わらず体調がすぐれなかったのだけど
やっぱり彼に会えるのは楽しみで


彼の家に着いて
いつものように玄関まで迎えに来てもらった時


彼の顔を見た途端に

嬉しい気持ちでいっぱいになった




やっと会えたね…




いつも体調が悪くて
出掛けることすら困難になっていた私は

心のどこかに
いつも不安を抱えていた


“もう彼に会えなくなってしまうのでは…”





でも今

こうして目の前に彼がいる

彼が

こんなに近くにいる



それだけでも
私の心は瞬間に暖かくなる







でも彼の顔は


一目見て
元気が無いのが分かった










部屋に入って

ソファーに彼が
腰掛ける




私はその彼から

ちょっとだけ離れて
座る





少しだけ空く
彼とのその微妙な空間が


私にとっては

すごく遠くも感じる距離で

私自身が

彼に踏み込めていないことがよく分かる







彼は無言で
うつ向き加減だった




『…はぁ…』



力無く溜め息をつく彼



私は
何を話そうか迷っていた




色々聞きたいことはある

でも今の彼には
そんなちょっとした質問ですら重荷に感じてしまうかもしれない


傷ついているであろう彼





私は
彼に会えて浮かれていた気持ちも知らぬ間に冷めている事にすら気付かなかった







大した会話もできずに


時間だけが過ぎていく…








今の事にあまり触れない会話としたら

会社の事を聞くくらいだろうか?



少しでも彼と話がしたくて

彼に元気を出してもらいたくて


私は聞いてみた


『…仕事はどう?

忙しい?』






少し間を置いて彼が答える


『…忙しいね

疲れたよ…。』






またひとつ
溜め息をつく彼





疲れているのは


仕事だけではないのだろう



一人での生活

今後の事



何も言わないけれど

きっと色々考えている…









彼は

今の生活を
いつまで続けるつもりなのだろうか



奥さんとは

まだ連絡をとらないつもりなの?





聞きたいけれど

聞いていいものか分からなかった





でも
彼の元気の無い姿は

きっと家庭の事も大きいはずだから




いくら喧嘩をしたとはいえ

奥さんの事も

そして
子供の事も

家族として
大切に思っているはずだから…






やっぱり
聞いてみよう


彼はもしかすると
我慢している事に気付いていないかもしれないから




私は
何度も言おうとして
飲み込んでしまっていた言葉を



慎重に…

口にする




『…まだ

この生活続けるの?』




彼は
私の隣で

こちらを見ることはせずに目線を下にしたまま


まるで人事のように
こう答えた



『さぁ…どうだろうね。』






静まりかえった部屋の中で

テレビの上に置いてある
丸い時計の

時を刻む音だけが

小さく響く






私は

ただ思った事を口にする


その事に
異常に神経を使ってしまっていた





彼が
少しでも癒される言葉って
どんな言葉だろうか?



安心できる言葉って

何だろう…?




本当は言葉だけではないと分かっていながらも


私は言葉の力に頼ろうとしていたのかもしれない



自分には
彼を安心させてあげる力は

無いと思っていたから







しかし
いくら色々考えたところで

そんな気の利いた言葉が頭の中に浮かんでくる事は
一切無かった。








彼がこの先どうしたいかは

彼が決める事なのだろう



今どうしたいかを
決めれるのは
誰でもない彼自身




『今

自分はどうしたい?』





私のその問に

彼は
少しだけ間を置いて考え


こう答えた




『…子供に


会いたいかな…。』








彼は

一人の子供を持つ父親



私の前にいる彼は
一人の男性だけど


家庭に戻れば
お父さんなんだ…





きっと今

目の前に彼の愛する子供が現れた時には


彼の顔は

一瞬にして晴れやかになるのだろう




彼の幸せは


きっと家族の元にあるのだろう…








その事に

彼は



気付いていない…?




いや

きっと
気付かない振りをしているだけ…




今の私にできる事は


その事を彼に教えてあげる事なのだろうか





今の生活は


彼にとって


家族の大切さを実感する


そんな時間なのだろうか





きっと彼は分かっているのだと思う

自分の幸せがどこにあるのかを







そして私は


彼に何もしてあげられない事と


今の自分のいるべき場所はどこなのか


本当は分かっていた






彼の生活

彼の
一人での生活が始まった


ただでさえ仕事が忙しく、いつも早朝から夜遅くまで会社にいる


身の周りの事をする時間は限られてくる

そうなると彼は
家では寝るだけで精一杯になるのでは?


そうなると
今の生活にも一層疲れてくるだろう


そうすれば

このままでは全てに無理が出てくるのではないだろうか…




一時期実家に戻るなり

何らかの手段を考えるのだろうか




そう思っていたのだけど…






しかし彼は

私が思うような甘い考えではなかった


やはり彼は

仕事だけでなく


生活も



生き方そのものに




手を抜く事ができない人だった…










彼の一日のスタートは

“お弁当作り”








彼曰く


『弁当をずっと買っていたら不経済。』

とのこと



今までは夫婦二人の稼ぎを基準に生活をしていただろう彼

今は

彼一人の稼ぎから

家賃
光熱費
車のローン
保険
税金

その他諸々…


全部支払っていかないとならない




少しでも削れるものは削らないと
実際のところは厳しくなると思う







そして
仕事から戻っても

ゆっくりする間も無く


夕食の準備

後片付け

風呂掃除と準備

洗濯




それを

誰に頼るでもなく

全てを一人でこなしていた





誰にも心配や迷惑を掛けたくないという
彼の考えからなのだろう…












その
毎日の様子を

彼から来るメールから

知る事ができた









彼とメールのやり取りをしながら


私は悩んでいた








今の私には
仕事ばかりの以前とは違って

“自分の時間”

がある。



夫婦二人が住むだけの家の家事なんて
半日もあれば全て終わってしまう


旦那が帰ってくるまでの時間は


私にとっての
自由な時間






私は

心の中で思っている事があった






それは…









“私が彼の身の周りのことをしてあげたい”











彼の為に何かできる事をしてあげたかった




彼の代わりに家事全般を引き受けてあげたかった



クタクタに疲れている彼が
心配で



本当は見ていられなかった







なのになぜ
私はそれを行動に移す事ができないのか


それは…








彼は

別居はしているけど
まだ既婚の身







私だって
既婚として同じ立場







彼の身の周りのことをしてあげたり
助けてあげる事は

やろうと思えばすぐにできる事かもしれない




でも



今の私は


彼に何かしてあげたいと
簡単に言える立場なのだろうか




今の私のような中途半端の立場の人間が


彼の事を助けてあげたいだなんて



そんな事を思っていいのだろうか…





もしかすると私は

余計な事をしようとしているのではないだろうか…








彼の奥さんだって

今回の行動は

何かの考えがあっての事かもしれないのだから




私がここで
好意のつもりで手を出してしまったら…




私の考えだけで
行動を起こしてしまったら…








私の都合や考えだけで動いてはならない。


お互い独身であるならまだしも






私達は




本当は





一緒にいる事が
許されない関係なのだから








彼に
もしもの事があった時にも





今の私には



何ひとつしてあげる事ができない





でもそれが





私達の悲しい現実なのだから…









私は
そんな事を一人でいつまでも考え


彼に

自分が思っている事を伝える勇気すら無かった










私の考え否定されるのが恐かったからだろうか








結局私は

彼の事を考えているようで

やっぱり自分の事しか考えていないのだろうか…








私が旦那との別居中には


彼の身に今の状態が起きるなんて考えてもみなかった事だった



それが


私が自宅に戻って間もなく



こんな事が起こるだなんて…








まだ旦那と別居をしている頃


…あの頃の私だったら



もしかすると


今とは違う行動を取っているのではないだろうか








私は


自分が今したいと思っている事



そして

本当はしたいけど
絶対してはならない事








その事を考えるだけて


頭を抱えたくなるほどに


自分が分からなくなっていた








今の

私の本心は





いくつもの


“してはならない”


という


重い重い鎖に


がんじがらめになっている





この鎖が

もし

何かのキッカケで

外れたとしたら





私は

どうしたい…?





“本当の私”は




どんな行動をとるのだろうか…











自分の無力さ


弱さ




それが悲しくて






彼の事を想う度に



深い溜め息をついている
自分がいた











彼は



何を思って毎日を過ごしているのだろう







今の私が


今の貴方にしてあげられる事って

何だろう



私にでも


してあげられる事って


あるのかな…








どんなに小さな事でもいい



貴方の支えになれるのならば






貴方の笑顔が


見れるのならば…







1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>