前回、ナポリタンが高級老舗ホテルのメニューブックにのれなかったことについて書きましたが、それはナポリタンという料理の価値が低いことにはなりません。

 ナポリタンの価値はもっとべつなところにあるということです。ナポリタンは日本で生まれた料理ですから、だれにもどこにも気兼ねすることなく進んでいけばいいと思います。

 

 ナポリタンの魅力の要素というと、濃厚な味付けとボリューム感、気軽さがあります。ナポリタンにはケチャップが不可欠であり、味付けのメインだといえます。

 ナポリタンをケチャップではなくトマトソースにしたり、デミグラスソースを加えたりするのは、コンセプトから外れる行為だと思います。ナポリタンのコンセプトは、良い意味でのチープさであり、洗練されたデザインとか高級感は必要ないと思うのです。

 

 ただ、おいしく作るための工夫として、ケチャップ以外の調味料を加えることはあります。中濃ソースをすこし加えると、全体に深みがでて、インパクトの強い味になります。

 最後の仕上げに生クリームを加えるというのもあります。生クリームをによって、とがった味がなくなり、まろやかな印象になります。コクも加わるので、より濃厚なあじわいにもなります。

 

 しっかりとした味付けによってあたえられるボリューム感だけでなく、見た目のボリュームもナポリタンにはあります。ペペロンチーノやカルボナーラが山盛りだったらカッコ悪いですし、食べるにしてもむずかしい気がします。その点ナポリタンは、山盛りにしても大丈夫です。

 ケチャップの赤は食欲をそそる色ですから、山盛りにしてもは無理がなく、プラスの効果に働きます。逆に、少量のほうが見栄えしないといえ、ナポリタンは山盛りのほうがアピールできると思います。

 

 少量だと見栄えしないのは、ナポリタンの材料が貧弱だからです。ソーセージやベーコン、タマネギ、ピーマンが主な食材で、マッシュルームなどのキノコ類が入ることもあります。

 いずれの食材も、いためるとしんなりしてしまうので、見た目をアピールできる食材はナポリタンには存在しないといえます。とはいえ、そこがナポリタンの肝でもあります。

 

 ナポリタンに立派なアサリや有頭エビが入ったら、意味がないのです。素材の味がしっかりした食材や高級な食材を使えばおいしくなり、見た目も豪華になるのは当たり前です。

 しかし。こだわりたいのはそこではないのです。安く、少ない食材で、いかにおいしく、お腹いっぱいになる料理を作れるか、が、ナポリタンのテーマなのです。