2013年81冊目に読んだ本「金融再編の深層 高橋温の証言」 | 「大学生のためのドラッカー」公式ブログ

2013年81冊目に読んだ本「金融再編の深層 高橋温の証言」

2013年、81冊目に読んだ本はこちらです。

金融再編の深層 高橋温の証言/朝日新聞出版


この本の肝は、2001年~2005年の長期にわたって日本経済を苦しめてきた不良債権問題と銀行を取り巻く壮絶な仕事ぶり—ではありません。

それよりも少し前、まだ「日本の銀行は潰れない」という不敗神話が渾然と輝くさなか、北海道拓殖銀行が崩壊し、山一証券が崩壊し、会社は潰れるし金融とて例外ではないという「当たり前」のことに気付いた頃。

それが、この話の中心です。
そして、主人公は高橋温。この本の著書であり、住友信託銀行元社長です。



話題は、長銀(日本長期信用銀行)の合併先として、名乗りをあげてほしいという政府の要請が中心になります。

当時、銀行が潰れることで、どれほどの影響が出るか解らない中にあって、長銀はその規模の大きさから「なんとかして救わなければならない」と政府が躍起になっていたのです。

もちん、その政府中枢の一人が、長銀と関係の深い宮澤蔵相であることも影響しているのでしょうが。



当時、住友信託銀行側は「合併拒否」の姿勢、それを何とか口説き落とそうとする政府、しかし頭の固い民間のせいで長銀はあえなく破綻し、ハゲタカファンドにさらわれた—そんなエピソードが、真しやかに語られました。

しかし、それは事実と違うと高橋氏は言います。
本によれば、氏は次のような条件を設けて、そのすべてを満たせば合併は可能であると言っていたというのです。

①正常債権のみの承継であること
②吸収合併であること
③金融監督庁による長銀の資産査定が済むこと

②はともかく、残り2つは、なかなか政府含め役所が飲み込もうとしません。

合併するにあたって、不良債権まで一緒に受け継ぐつもりは無いし、もちろん長銀の資産は金融庁が査定をして下さい。

たった、それだけのことなのに、なぜ、できないか。それは、③をしてしまうと長銀が債務超過であることが解ってしまうから。なぜ、解ると駄目なのか。それは、これより少し前、銀行にウン千億とという公的資金が投入されており、それが焼け石に水であることが発覚してしまうから。

つまり、政府は自身の失政を認めたくないから資産査定はできないと言うし、だからすべての債権を引き取ってくれと言う。しかし銀行側としては、それをすると、利益に実害が出てしまうので、株主代表訴訟を起こされる可能性がある。

最初から、当たり前のことができないと住友信託銀行側は解っていて、それでも合併する可能性を少しでも諦めずに検討し続けた。どちらかと言えば、その姿勢に僕は感動を覚えます。


当時、日銀総裁やら蔵相から、とにかく合併しろというさざ波(という名の圧力)が送られている最中で、氏はその主張を絶対に負けず、最後まで「3条件をクリアしない限りノー」と言い続けていました。

その経営者としての姿勢は、経営者でなくても見習うべきでしょう。すなわち、筋が通っていないことには、必ず後で論理が破綻するのだから、誰かが「違う!」と言わなければならない

半沢直樹のように。



さて、今回はこの本を読んで得た気付きを1つ。

それは「後世に語れる仕事をしよう」ということです。

何も氏のように自伝を書きなさいと言っているのではありません。自分の子供でもいい、孫でもいいと思うのです。人に語り、相手から尊敬される仕事をしましょう、と感じました。

誇りは金では買えません。1億円の資産運用も、テナントのゴミ掃除も、どちらも仕事です。ゴミ掃除を「格好悪い」と貶めているのは、自分自身の心ではないでしょうか

大切なことは、自分の今している仕事に誇りを持てているか否か。高橋氏のように間違っていることを「違う!」と言えるのは、自分の中に仕事に対する誇りがあるからだと僕は思います。

それがなければ、政府の干渉を受けて直に靡いているでしょう。



自分の仕事に誇りを持つのは、自分の心の持ち次第。後世に語れるほど、仕事に自信と誇りを持ちたいですよね