「誠にかたじけない。しかしご覧のように西軍が進出していて

拙者をかくまったと思われたら、その方に迷惑がかかる。心だけ

ちょうだいしておく」

一礼して進もうとするのを小柄な男は前に出て止めて

「そったら、こうしまい。もうちょっと行くとうみゃい蕎麦屋があるずら

そこで一休みしてからにするのは それで良いダラ」


西軍の手先となって通る武士を通報するヤクザも多く土地勘のない者が

歩くには危険である

小男の気持ちはありがたく、これ以上断ると失礼になる

「それなら拙者も異存ない。助けてもらったお礼もしてなければならぬし

蕎麦でも奢らせてもらおう」


二人はゆっくりと歩き始めた 銃身が揺れない足取りは渡世人として

余程の修羅場をくぐってきたのだろうか隙がない

こんな男は初めてだ。いや、京で見たな 確か鉄と言っていた

そうそう、もう一人ヤクザではなく火消しだが江戸でも見かけた

新門の辰五郎だ この小男も街道でも有数の大親分になるだろう

若い武士はそんなことを考えながらついて行った


蕎麦屋の看板を掲げた小作りの店が見え、周りに数人地回りらしき若衆がいる

むっここにも西軍の使い走りがいたか!侍は身構えたが


「れれれのれ!小政兄いだら」「どこに行っていたずら 心配したズら」

手を振って駆け寄ってきた


つづく