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何組かの歌手の人が出てきて、全員が歌い終わって。
DJがフロアを踊らせ始めると、歌手の人達がフロアにポツポツ出て来た。
えっ?!
もしかして、あの人も出てくるの?!
他の歌手と話す派手な女の人を見て羨ましく思いながら、あの人を待っていた。
喉が渇いて、ドリンクのグラスを何度か取り替えた。
さっきまでうるさいとしか思えなかった爆音が、今は心地良く感じられて、
気付かないうちにリズムを取る。
アルコールとリズムで、酔いは回る。
バクバクと音を立てる心臓。
ああ、私生きてるんだな。
足がふわふわとしてきた頃、人と人の合間にあの人の顔が見え隠れした。
!
心臓が壊れたんじゃないかと思うくらい激しく早く動き始める。
耳まで熱くなる。
急に汗をかく。
どうしよう、話したい。
でも、逃げたい。
でも話したい。
……緊張しすぎて気持ち悪い。
そうだ、友達に一緒に行ってもらおう。
フロアを見渡すと、友達は自分のお目当ての歌手と楽しそうに話していた。
邪魔したら怒られそう。
……よし!
ふらつく体を無理矢理動かして、あの人の近くに寄って行く。
人にもまれながら進むけど、なかなかたどり着かない。
それでも、ちょっとづつちょっとづつ距離が縮まる。
誰かと話してほころぶ彼の唇。
あんな風に笑いかけて欲しい。
あと、ちょっと。
その時、後ろから誰かに強く押された。
転ぶ!
けれど、私を受け止めたのは固い床ではなく、柔らかな腕だった。
「す、すみません」
そう言いながら顔を見上げると、あの人の顔が間近にあった。
驚いて声も出ない私に、上から柔らかな声が降ってきた。
「大丈夫?」
心配そうな目に見下ろされて、周りの音が聞こえなくなる。
続く