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その事件なら覚えている。


誰も乗っていないクルーザーに、血痕だけが残されていて。


確か迷宮入りしていたはずだ。


……リナさんが関わっていたなんて。


「俺を襲った男が、その詐欺師?」


「違うわ。あれはあたしを抱いた男の一人よ。ストーカーみたいな奴で。


しつこくて気持ち悪くて、嫌いだった」



稲光と共に、地震のような振動が伝わってきた。


近くに雷が落ちたんだろう。



「思い出さずに……リナとしてこのままこの島で生きていけたら良かったのに」


「一緒に……生きよう」


リナさんが首を横に振る。


「……もう、思い出してしまったもの。リナとして生きれない」


「それでも!」


「!」


堪らなくなってリナさんの手を掴んだ。


「俺の隣で一緒に歌って欲しいんだ」


「……」


祈るような思いで、リナさんの目を見ながら言った。


「一緒にいると、音楽が生まれる。俺の体から、指から。


忘れていた懐かしくて新しい景色が見えるんだ。


これからも、リナさんと一緒に見た事のない景色を見たいんだ。


だから……俺の為に、俺と一緒に生きてくれ」



リナさんが、哀れむような目で、俺を見ている。



続く