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それからの俺は、リナさんの隣から離れる事を止めた。


離れるのはトイレと風呂くらいだった。



親父の店にまで入り込んできたアイツ。


リナさんにとって、安全な場所なんか一つも無いのだ。


いつ、どこで、アイツがリナさんに危害を加えるか分からない。


そう思ったら、片時も離れていることなんて出来ない。


けれど、それはリナさんを束縛する事にしかならなくて。


息苦しさを感じたのか、リナさんが日に日に苛立ちを募らせているのを感じていた。



そして、とうとう喧嘩をしてしまった。


風呂に入る為にリングを外したリナさん。


それを俺が咎めたのだ。


どんな時も外さないで欲しいと。


リングが濡れてしまうのは嫌だというリナさん。


それでも付けて欲しいと強く言ってしまった俺。




本当に、どうでもいいような些細な事。



リナさんが首を横に振り、タオルを洗濯カゴに叩きつけるように投げ入れ、


そのまま外に出て行ってしまった。


俺も追いかけなかった。


洗面台に置きっぱなしのリングを見ながら、その場に座り込む。



どうしてこんな風になってしまったのだろう。


俺はただ、リナさんを守りたくて。


好きだから。


音楽で繋がる事を思い出させてくれたから。


ずっと傍にいて欲しいから。



座り込んだまま、両手で頭を抱える。


馬鹿だな、俺。


いつも一番大事なモノを、追いかけすぎて追い詰めて、失くしてしまう。


リナさんの事も、そうして失っていいのか?


……嫌だ、失いたくない。


追いかけなきゃ。



店の引き戸を開けて、外に出る。


リナさん、どこに行ったんだろう?



続く