彼の汗が擦り付けられた肌。


洗い流してしまうのが惜しくて、彼の匂いを付けたまま服を着た。


コートの中に隠した秘密。


隠し切れない彼の匂いが、コートの隙間から立ち上って、


また体の芯に熱が帯びる。


彼を欲しがる体と気持ちを持て余して、朝の街を歩く。



通り過ぎて行く、たくさんの恋人達。


繋がれた指。


これからどんなに体を重ねても。


あんな風に指と視線を絡めて、外を歩くなんて出来ないんだ。



誰にも知られてはいけない。


分かっていて、始めた事。


けれど。


こんな熱を持ったまま一人にされてしまったら。



会いたい。



携帯を取り出して、彼のアドレスを開く。


通話ボタンを押そうとして、止めた。


首を振る。


この時間に着信があったら。


家に戻っていたなら。


奥さんにバレるだろう。


そうしたら、彼と過ごす夜は永遠に失われる。


いつ会えるか分からない。


今この衝動を抑えて我慢すれば。


いつか会える。


本当に?



携帯を握ったまま、動けなくなる。


会いたい。


抱いて欲しい。


抱き締めて欲しい。


今。


約束も、何も無い。


連絡すら出来ない。


それでも会いたい。



桜の花びらを舞い上げる、春の強い風。


昨日私の背中を押した。


今日は私の向かい風になって、想いを留まらせる。


頬を花びらに叩かれながら、向かい風に逆らって歩き始める。



ゆらゆらと行く当ても無く。


揺れる桜の枝のように。



続く