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小学校の教室で作り上げた曲を歌う。


毎週末のライブは評判を呼び、徐々に客が増えていった。


今夜もそんなに大きいとは言えないフロアに、パンパンに客が入っている。


オーナーはホクホク顔だ。


そして。


俺たちの歌を聞いた客の口コミが広まり、テレビの取材が入る事になった。


もちろんローカル局だけど。


今夜のライブを撮影するのだそうだ。



撮影の為のライトで照らされて、眩しい。


客席には、リョウイチさん、レイナさん、トモヤが陣取っている。


親父と母さんもいるはず。


照明の眩しさで、客席は見えないからいいけど。


何だか照れくさい。



期待に膨らんだフロアから、熱気が波のように伝わってくる。


カメラが俺やリナさんに向けられる。


リナさんが振り向いて、俺と目を合わせ微笑む。



始めようか。



頷いて鍵盤に指を置き、そっと押し込む。


誰もが知っている有名なラブソング。


気付いた客が歓声を上げる。


恋に落ちた俺が、愛しい女の隣で歌うのだから、


きっと誰もが切ない気持ちを思い出すだろう。


そして、誰かに恋をしたくなるだろう。


もしかしたら、今夜このクラブで、恋に落ちるかもしれない。


そんな期待を抱かせる甘い旋律。


リナさんの背中に向けて、想いを乗せて歌う。



鍵盤から指をそっと離す。


一瞬静かになったフロアから、割れんばかりの拍手と歓声が起こる。


リナさんが嬉しそうに振り向いて笑う。



その笑顔に、カメラが向けられていた。



続く