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抱えていたビールケースを床に置いて、腕を擦る。
腕が痛い。
昨日久しぶりにピアノを弾いたせいだ。
しかもあんなに長い時間。
ずっとずっと二人で歌い続けた。
雨が上がって、夕日が空と教室とリナさんの顔を朱く染めても。
時々振り向いて、視線を合わせる。
その度に、目だけで微笑むリナさん。
俺も釣られて微笑む。
繋がっている。
この人ともまた、音楽で。
そう思うと、踊りだしたくなるほど嬉しかった。
指が弾む。
音が弾ける。
体から溢れ出た音が満たす空間。
心地良すぎて、止めるなんて出来なかった。
結局、女先生達が帰る時間までいて。
止められなかったら、いつまでやってたんだろう?
心地良い疲労感に包まれて歩いた、帰り道。
雨上がりに吹く風は、微かに海の匂いを運んで。
リナさんと並んで歩きながら、酸欠の頭で気が付いた。
リナさん、声出てた!
本人に聞いてみると、慌てて何かを話そうとして……やっぱり話せなかった。
歌ってみて、というと、声が出た。
普通には話せないけど、歌は歌える。
やっぱり、精神的なモノなんだろうか。
リナさんは、ニコニコと微笑みながらテーブルに料理を運んでいる。
いつものように。
でも俺には、その姿も特別なモノとして映っていた。
昨日のあの空間。
あれを共有してしまったから。
また味わいたい。
あの恍惚感、幸福感。
思い出すだけで、口角が勝手に上がる。
体の芯が痺れるような快感。
二人でまた、分け合いたい。
続く