21
夢中でピアノを弾き続けた。
何もかも忘れて。
そばにいるはずのリナさんの事も。
飢えていた。
指先が鍵盤の上を走って行く。
もっと音を。
窓を叩く雨の音が、リズムを刻む。
もっとリズムを。
乾いた喉に水を流し込むように、音を求めて。
体中を音色で満たしたい!
好きなのに、強引に引き離された恋人に再会したように。
まだ俺の中で燻ぶっていた夢の端切れが、目を覚ました。
腕が痛くなってきたのも構わずに、鍵盤を叩き続ける。
抑えきれない衝動に、体から大量の空気が吐き出される。
歌う。
こんなにシンプルな事が心を揺さぶり、目の縁に涙が盛り上がる。
でも泣かない。
泣いてしまうと炎症を起こして、喉がいかれてしまう。
歌いたいんだ。
ただ、それだけなんだ。
?!
誰かが歌ってる。
誰?
歌いながら、後ろを振り向く。
机に座って外を見ているリナさんが、気持ち良さそうに歌っている。
その意外と低い声。
黒いベルベットのような、滑らかな。
俺の歌と合わせるように、コーラスをしている。
ビックリしている俺と視線が絡んで、リナさんの目が微笑む。
俺は安心して、ピアノを弾き、歌い続ける。
もう何年も一緒に歌っているように、俺の声に寄りそうリナさんの声。
その心地良さ。
フワフワと空を舞うような浮遊感。
もっとずっと、浸っていたい。
雨に閉じ込められた教室。
ピアノの音色。
二人の声が、教室の壁に反響しビリビリと揺らす。
ピアノと、俺と、リナさん。
熱気が、窓を曇らせる。
充満した空気が、音と一緒に冷えた廊下に流れ出していく。
雨はまだ、止まない。
続く