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結局、女の人を連れて家に戻った。
身元が分からない人間を、入院させておく訳にはいかなかったらしい。
それで俺が呼ばれたのだ。
第一発見者だからな。
どうしようかと思ったけれど。
自分の名前すら分からなくて不安げな女の人を、放っておくわけにもいかず。
家に連絡を入れて、ひとまず連れて帰る事にした。
車の後部座席で、女の人は窓から外の景色を見ている。
助手席のトモヤが、後ろを向いて女の人にいろいろ話しかけている。
その度に女の人は頷いたり首を横に振ったりして、返事をしている。
トモヤなりに、気を使っているのか。
何だかトモヤは嬉しそうだ。
耳は聞こえるんだもんな。
記憶を失くして、声を失くして。
何があったんだろう?
聞いても困らせるだけだろうし。
どうしようかな、これから。
家まで運転している間に、太陽が海に沈み始めた。
窓から差し込む夕日が、女の人の青白い顔に色を付ける。
眩しそうに海を見つめている。
髪の毛が夕日で金色に照らされて、風に流されている。
その様子はゆったりとしていて、海辺で倒れていたとはとても思えない。
バックミラーに映る女の人の横顔。
綺麗だな。
続く