「ねぇ、お願いがあるんだけど」


「え?」


「来週結婚する私に、幸せになるおまじないかけて欲しいの」


「おまじない?」


「そう」


「乙女チック過ぎじゃない?」



余りにも似合わない言葉に、思わず笑ってしまった。


アイツもつられて笑ったけど、目だけが真剣で。



「……どうすんの?」


「えっとね……髪に何か付いてるよ?」


「え? どこ?」


頭を手で払ってみる。


「ああ、全然取れてないよ。取ってあげる」


アイツが手を伸ばして、髪の毛に触れる。


「なかなか取れないな……ちょっと目つぶって」


素直に目をつぶる。



その瞬間に、唇に何か当たった。


冷たくて、柔らかいモノ。



驚いて目を開けると、すぐ目の前にアイツの顔があった。


黒目に、ビックリした俺の顔が映っている。


寒さで赤くなった耳たぶに、白い息が流れていく。


「……」


「……」


「何してんの?」


アイツがピョンと飛んで一歩下がり、おどけたように言う。


「おまじない、かけてもらった!」


「はっ?」


「これで私の人生、幸せしかやってこない!」


「……」


「今日は付き合ってくれてありがとう」


「いや……」


「このマフラー、煙草とハンバーグの匂いがする」


「あっ、臭い?」


「ううん、良い匂い」


「……」


「これ、やっぱり貰っていい? もう会えないと思うからさ」


「え?」


「もーらった! ありがとう!」


そう言うと、強くなってきた朝日に照らされる白い道を、アイツは一人で走り出した。


「おい! 返せよ! お気に入りなんだからな!」


背中に怒鳴ったけど、アイツは振り向きもせず駆けていった。



……変なヤツ。




続く