7
「ねぇ、お願いがあるんだけど」
「え?」
「来週結婚する私に、幸せになるおまじないかけて欲しいの」
「おまじない?」
「そう」
「乙女チック過ぎじゃない?」
余りにも似合わない言葉に、思わず笑ってしまった。
アイツもつられて笑ったけど、目だけが真剣で。
「……どうすんの?」
「えっとね……髪に何か付いてるよ?」
「え? どこ?」
頭を手で払ってみる。
「ああ、全然取れてないよ。取ってあげる」
アイツが手を伸ばして、髪の毛に触れる。
「なかなか取れないな……ちょっと目つぶって」
素直に目をつぶる。
その瞬間に、唇に何か当たった。
冷たくて、柔らかいモノ。
驚いて目を開けると、すぐ目の前にアイツの顔があった。
黒目に、ビックリした俺の顔が映っている。
寒さで赤くなった耳たぶに、白い息が流れていく。
「……」
「……」
「何してんの?」
アイツがピョンと飛んで一歩下がり、おどけたように言う。
「おまじない、かけてもらった!」
「はっ?」
「これで私の人生、幸せしかやってこない!」
「……」
「今日は付き合ってくれてありがとう」
「いや……」
「このマフラー、煙草とハンバーグの匂いがする」
「あっ、臭い?」
「ううん、良い匂い」
「……」
「これ、やっぱり貰っていい? もう会えないと思うからさ」
「え?」
「もーらった! ありがとう!」
そう言うと、強くなってきた朝日に照らされる白い道を、アイツは一人で走り出した。
「おい! 返せよ! お気に入りなんだからな!」
背中に怒鳴ったけど、アイツは振り向きもせず駆けていった。
……変なヤツ。
続く